年賀状は「正装」、メールは「ジーンズ」
――年賀状の魅力は何でしょうか。
齋藤教授 ふだんあまり会わない人に近況を伝えたり、面と向かっては言えないことを言えたりするのは良いですね。それに、手書きの年賀状には「人の肌触り」を感じます。その人の『体温』が感じられる、というか。今の時代、一番喜ばれて、価値があるものではないでしょうか。
だから、手書きの年賀状はいいと思います。書く字は別に下手でかまわない。私が毛筆を勧めるのは、字それ自体に生命力を感じるからです。下手でも下手なりの生命力はすごく伝わってきますし、人を惹きつけると思います。
――ところが、今はメールを利用する人もいます。
齋藤教授 年賀状は日常とは全く違ったもので、改まったものだと思います。服装にたとえると正装で、ドレスアップした感じがします。クラシック音楽を聞きにいくのは正装で出かけるでしょう。その方が気分は盛り上がったり、雰囲気に価値がでたりします。
それに比べて、メールはいわばジーンズか、仕事用のスーツみたいな感じでしょうか。メールはたしかに、要件を伝えるには大変便利なツールです。日常的な友達同士の待ち合わせや、日常的な細かい仕事のやりとりには向いていますし、今や欠かせません。でも、年賀状をメールで送るというのは日常の延長のようで、年賀状の持つ改まった気持ちには合わないと思います。
――今年の年賀状には何を。
齋藤教授 年賀状には、ちょっとした近況を入れるようにもしています。しかし、仕事先にも出すことを考えると、プライベートとパブリックの加減が大変といえば大変。その辺は、さしさわりのない話題を交えるようにしています。
実は今年、チェロをはじめたんです。近況報告にはそれを書こうかとも思っています。私を知っている人であれば、私がチェロを弾くのは違和感があることなんですよ(笑)。運動部体質でスポーツや武道ばかりやってきたので、音楽というのは絶対イメージが沸かない(笑)。なので、笑ってもらえそう。
チェロはさきに子供がやっていて、部屋に楽器を置いているんですが、取材に来る人が口々に、「先生はチェロをおひきになるんですか」と。それで、自分もはじめたわけです。年賀状に吹き出しを作って、「チェロはじめました。『ちょうちょ』弾けます」なんて書いてみるのも楽しそうです。年賀状にユーモアを添えるのも悪くないですね。
齋藤孝さん プロフィール
さいとう・たかし 1960年、静岡生まれ。東京大学法学部卒業後、東京大学大学院教育学研究科 学校教育学専攻博士課程を経て、現在は明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。2001年には、新潮学芸賞を受賞した『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス)、シリーズ260万部を超えたベストセラー『声に出して読みたい日本語』(草思社)が話題に。ほか、教育やコミュニケーションをテーマにした書籍、ビジネス書など著作多数。