枝川二郎の「マネーの虎」
「国はもっと借金して大丈夫」 主張する人たちの「でたらめ」

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   2009年度の国の税収(見込み)は36兆9000億円。その一方で鳩山由紀夫首相は2010年度の国債の発行、つまり新たな借金を44兆円以内に抑えると言っている。これはいわば年収369万円のサラリーマンが、年収を上回る440万円もの借金を新たにするようなもので、明らかに異常事態といえよう。

   しかし、こんな状況でも「国の借金は多すぎることはない、もっと借金をしろ」と主張する人たちがいる。今回はそういう見方がいかにおかしいか、ポイントを一つひとつ、順を追って論じてみたい。

借金返済のための「増税」は最悪の政策

1)いざとなったら政府は国民から税金をたくさん取って返済に回せば良い?
   政府は国民の同意なしに税率を上げることはできない。「国の借金を期日どおりに返すために税金を今までの2倍払ってください」などと政府が国民に頼んだとしたらどうだろう。「政府の責任を国民に押し付けるな」と拒絶されるに決まっている。消費税を1%上げるのさえ容易でないのに、大幅な増税が可能と考えるのは甘すぎる。それに大幅な増税は間違いなく景気悪化につながる最悪な政策だ。
2)日本には豊富な国有財産があるので、借金の返済に問題はない?
   国債に担保はなく、たとえ返済不能になったとしても、借り手である国が国有財産を差し出す義務はない。たとえば、90年代後半にロシアが債務不履行になった時も「じゃあ天然ガスで返せ」などという話にはならなかった。「皇居だけで数千億円の価値がある」などとうそぶいてみても、現実に皇居を貸し手に差し出すわけにはいかない。国の借金が返済されるかどうかは結局のところ政府の信頼性に大きく依存している。国有財産に手をつける前にバンザイするのが国の債務不履行というものだ。

政府の返済不能は必ずしも稀なことではない

3)国債の95%は日本人が保有している。日本人の金融資産は1500兆円あるので、その範囲内ならば返済に問題がない?
   1500兆円には、わたしのわずかばかりの預金や生命保険も貢献しているはずだが、国の借金の返済のためにわたしの資産を使ってもらって結構、などと国に約束した覚えはない。あるいは、国債を多額に保有している銀行や保険会社が政府に資金を贈与する義務もない。もしも民間のカネを政府が強制的に召し上げるような事態になったとしたら、それこそ国の借金の貸し倒れにも劣らないような緊急事態だ。まして、国債を持っている人の国籍によって返済の条件を変えるようなことが許されるはずがない。
4)日本国の借金は円建てなのだから、必要な金額だけ札を輪転機で刷れば必ず返せる?
   理論的にはその通り。インフレによる解決だ。しかし、数十兆円、数百兆円のカネをじゃぶじゃぶ市場に放出するというのは、すなわち円の価値を暴落させることに他ならない。1946年に戦時国債はハイパー・インフレーションにより紙くず同然になったが、これでは「返済できなかった」というのと実質的に違うところがない。

   先進国の政府による返済不能というのは必ずしも稀なことではない。アメリカでは大恐慌の最中の1933年に金本位制の下で債務不履行となった。また、日本では第二次大戦後の混乱期に戦時国債の実質的な債務不履行のほかに預金封鎖や新円切り替えの制限などがあった。

   現在、国の借金は明らかに危険な領域にある。鳩山首相は二酸化炭素の排出量を2020年までに25%削減すると宣言したが、より差し迫った課題である国債の削減計画を何よりも先に示すべきだと思う。返済の見通しが立たないままに節度なく借入を増やしている今の状態は「ネズミ講」とまで言わなくても「無責任の極み」といえるのではないか。

   適切な行動をとられることを望みたい。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。


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