天皇陛下と中国の習近平国家副主席の「特例会見」問題が思わぬところに飛び火した。民主党政権による「天皇の政治利用」として自民党は激しく批判してきたが、自民党側からも会見実現に向けた働きかけがあったというのだ。泥試合の様相も呈しつつあるが、自民党は特命委員会を設けて徹底抗戦する構えだ。
いわゆる「1か月ルール」を曲げて設定された「特例会見」は2009年12月15日、予定どおり皇居で実施された。しかし鳩山政権が天皇陛下を政治利用したという批判はおさまっていない。
元首相の要請は「1か月ルール」によって断られた
そんななか飛び出したのが、前原誠司国交相の「要請したのは元首相」発言だ。前原国交相は15日の記者会見で
「元内閣総理大臣の方から話があったと私は聞いている」
と述べ、自民党の元首相から首相官邸に要請があったという認識を示した。元首相とはだれなのか。永田町界隈では複数の名前があがったが、中曽根康弘元首相だといわれている。
中曽根元首相は中国とパイプが太く、07年6月にも日中青年世代友好代表団の最高顧問として上海を訪問し、中国要人と交流を深めている。また特例会見の1週前の09年12月7日に首相官邸を訪れていることから、そのときに要請したのではないかと噂された。永田町事情に詳しい政治ジャーナリストは
「自民党は今回の問題を検証する会合を16日に開いたが、そこに呼ばれた政府職員の口からも中曽根さんの名前が出た。まず間違いない」
と話している。もし中曽根元首相が働きかけていたとしたら、自民党の批判はトーンダウンせざるをえない。だが、前出の政治ジャーナリストによれば、中曽根元首相の要請は「1か月ルール」によって断られたという。つまりルールを曲げて、強引に周近平副主席との会見を設定したのは、やはり民主党政権だというわけだ。
自民党は「政治利用」検証の特命委員会を設置
そのような事情もあって、自民党は攻撃の手をゆるめない。「前原発言」を知った谷垣禎一総裁は12月15日、
「まさに『顧みて他を言う』ということ。責任の転嫁というのが正しいのではないか」
と批判。石破茂政調会長も翌16日の会見で
「国土交通大臣の発言は真意がよく分からないが、いかなる確証をもってそういう発言をしているのかということがなければ、国務大臣の発言としては極めて無責任かつ不適当だ」
と前原国交相を非難した。
自民党は16日、天皇陛下の政治利用について検証する特命委員会を設置。今回の経緯を調査するとともに関係者や有識者から意見を聞いて、党としての見解をまとめるとしている。
批判しているのは自民党だけでない。メディアからも異論が噴出、特に厳しいのが産経新聞だ。15日付け紙面で外務省関係者の「中国の走狗」「亡国政権」という言葉を紹介しながら、中国に配慮して特例を認めさせた鳩山内閣やその背後にいる小沢一郎幹事長を強く非難している。
ただ、なかには「自民政権も天皇陛下の政治利用をしてきた」という意見もないわけではない。ある元全国紙記者は
「園遊会だって政治利用だ。だれを天皇陛下の園遊会に招待するのかというときにも必ず政治的な判断がある」
と指摘する。宮内庁長官が投げかけた波紋はまだ静まりそうにない。