宮内庁の羽毛田信吾長官が、天皇の特例会見についてまた苦言、反論を展開して波紋を呼んでいる。政治家ではなく役人だが、過去にも皇室問題で発言を繰り返している。皇室を代弁しているのか、単にでしゃばりなだけなのか。
「自分は官房長官の指揮命令に従うと同時に、陛下のお務めのあり方を守る立場にある。辞めるつもりはありません」
羽毛田信吾長官は、民主党の小沢一郎幹事長が「辞表を出して言うべきだ」と述べたのに対し、こう公然と反論した。2009年12月14日に記者団の取材に応じたときのことだ。
役人ながら、新聞や週刊誌を度々にぎわせた
閣僚ならともかく、役人としては異例の発言だ。天皇陛下と中国の習近平国家副主席との会見が特例扱いで決まったときに、「二度とあってほしくない」と苦言を呈してから、発言を控えるそぶりさえ見せない。頑として、皇室の政治的中立や陛下の健康への配慮などを理由に、「1か月前ルール」を守る考えを改めない構えなのだ。
羽毛田長官は、生え抜きではなく厚労省出身で、2001年4月になって宮内庁の次長に転じた。小泉純一郎政権時代の05年4月から、同庁長官を務めている。
役人ながら、その発言は、新聞や週刊誌を度々にぎわせてきた。
三笠宮寛仁さまが月刊誌対談で女性天皇容認を批判した06年1月、羽毛田長官は、定例会見で「正直『困ったな』という気持ちが強い」と述べた。このときは、「内閣や国会が対応すべき政治的な事柄」とその理由を挙げている。
また、08年2月には、皇太子ご夫妻が愛子さまとともに天皇・皇后両陛下を訪問なさる回数が少ないことを、定例会見で批判。皇太子さまが両陛下とお会いする機会を作りたいと述べられたことを受けて、「ご自身が会見で発言なされたことなので、大切になさっていただきたい」と注文まで付けた。
いずれの発言も、「役人が会見で言うべきことなのか」と、テレビのワイドショーなどでも、繰り返し取り上げられている。
擁護、批判と意見は真っ二つに
事態は、役人が政治家に反乱したような構図になっているが、羽毛田信吾長官を擁護する声はかなり多いようだ。
宮内庁には、2009年12月14日までに1000件を超える意見が寄せられ、その多くが羽毛田長官に賛成する意見だという。ライブドアのネットリサーチでも、長官支持が7割強も占め、小沢一郎幹事長支持は2割強に留まっている。
皇室ジャーナリストの松崎敏弥さんも、羽毛田長官支持の立場だ。
「民主党政府がゴリ押しをした方が問題であり、長官が抵抗するのは当たり前です。どこの国とも平等にスケジュールを作っており、陛下のご体調を考えながら忙しい公務も割かないといけません。陛下も話が来れば、断れないでしょう。いきなり会ってくれというのは、陛下に対して失礼なことです。ルールは守ってほしいですね」
一方、識者を中心に、羽毛田長官の対応ぶりを批判する声も次々に上がっている。
新党大地の鈴木宗男代表は、日本BS放送の番組内や自らのブログで、「尊皇精神に欠けている。陛下は会見を受けられたのだから、決まった後に言うのは陛下にとんでもなく失礼だ」などと批判した。
また、元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは、ライブドアのコラム「眼光紙背」で、「職業的良心に基づいて考えるならば、『私はそのようなお願いをすることはできません。どうしてもというならば、私を解任してください』と言って頑張るべきだ」と指摘。「経緯説明という名目で記者会見を行ったことによって、天皇陛下が政治問題に巻き込まれてしまった」と主張している。
この問題、まだまだ論争は続きそうだ。