鳩山由紀夫首相の資金管理団体の偽装献金問題をめぐり、新たな疑惑が浮上した。首相の母親(87)が首相と、弟の鳩山邦夫・元総務相側に9億円ずつ提供していたことが「『貸し付け』ではなく、納税が必要な『贈与』にあたる」と問題視されるなか、首相の姉にも資金が提供されていたというのだ。
仮にこれが事実であれば、姉は政治家ではないことから、「もはや政治資金ですらなく、単なる『相続対策』なのではないか」との指摘も出そうだ。過去にも、自民党幹部が政治家でない息子に生前贈与した金融債が「資産隠し」として問題化したことがある。
母親の資金提供は「政治資金」ではなかった
これまで問題とされて来たのは、首相の母親から鳩山「兄弟」への資金提供だ。具体的には、母親が04年から08年にかけて、鳩山家の資産管理会社「六幸商会」が管理していた口座から現金を引き出し、鳩山首相と弟の邦夫氏に、約9億円ずつを提供していたとされる。1か月あたり、約1500万円の計算だ。当初、これらの資金は「貸付金」だとされていたが、返済計画などを記した借用書が存在しないとされることから、「実質的には、母親から兄弟への『贈与』なのではないか」との見方が強まっていた。このことから、相続税法違反(贈与税の脱税)を指摘する声も相次いでいたため、
「きちんと贈与税を支払うのが責任の取り方」(邦夫氏、12月8日)
「払うべきものがあれば、当然払うべきだ」(鳩山首相、12月10日)
と、一連の資金提供が贈与だと認定された場合は、贈与税の納付に応じる考えを相次いで明らかにした。これで疑惑は「幕引き」になるかに見えた。
ところが、資金提供の対象が「兄弟」に留まらないという疑惑が持ち上がった。母親が、鳩山首相の姉にも資金を提供していたというのだ。2009年12月15日、日経新聞や時事通信が報じたもので、両記事によると、東京地検特捜部もこの事実を把握、調べを進めているとされる。鳩山首相は姉と邦夫氏との3人きょうだいで、姉は政治家ではない。このことから、「資金提供は『政治資金』ではなく、単なる『生前贈与』で相続税逃れだったのでは」という指摘が出るのは必至だ。
追徴課税を受ける可能性もある
政治家の遺産相続をめぐっては、14年ほど前にも、「生前贈与隠し」が問題化したケースがある。問題とされたのは、1992年に82歳で死去した斎藤邦吉・元自民党幹事長の遺産。斎藤氏の遺族は遺産額を約7億7000万円と申告していたが、95年になって東京国税局が約9億円の申告漏れを指摘。そのうち約7億円1000万円は無記名の割引金融債「ワリコー」だった。斎藤氏は生前、87年から92年にかけて、数回にわたってワリコーを譲渡したが、譲渡を受けた3男は生前贈与の申告をしていなかった上、遺産相続時にも相続遺産として申告していなかったため、「遺産隠し」を認定されたとされる。3男は、当時は大手電機会社に勤務しており、譲渡の対象が政治家ではないという点でも、今回のケースと共通している。当時の新聞報道によると、斎藤氏の遺族側は
「3男が自分の資金で買ったワリコーと、譲渡されたものがごちゃごちゃになった。それを『全部隠した』と決めつけられた」
などと反論していたが、結果的に追徴課税されている。
今回のケースでは、母親から首相の姉に提供された金額は明らかになっていないものの、億単位での追徴課税を受ける可能性もありそうだ。