1978年に社長に就任して30年あまり。世界の有力企業を見渡してもそう多くはないであろう、大ベテラン経営者がスズキの新たな資本・業務提携を決断した。
スズキの鈴木修会長兼社長は2009年12月9日、東京都港区の六本木ヒルズで独フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ヴィンターコルン会長とともに記者会見を開き、同日、スズキとVWが包括的提携に合意し基本契約書に署名した、と発表した。
具体的な業務提携の内容公表されず
鈴木会長は「スズキは率直に言って環境技術の開発は遅れをとっている。持ち味は小さな車をコストを下げて造ることでこれは自信を持っている。インドやアジアに工場を持ち力を出している」と自社の評価を示したうえで「スズキの良さとマイナスを何とかカバーしないといけないと決意した」とVWとの提携の理由を語った。
2006年に経営が悪化した米ゼネラルモーターズ(GM)が保有するスズキ株の大半を売却したときを振り返ってスズキ会長は「1981年にGMと提携しまさかこういう事態を迎えるとは思わなかったが、株式売却で包括提携関係は終わったと理解した」と述べた。GMのリック・ワゴナー会長から電話で知らされた瞬間から鈴木会長の頭では次なるパートナー探しが動き出したはずだ。
ただ、メディアに対しては「こちらと終わったら次はハイあちら、とはいかない」と、音なしの構えを貫き11月2日の中間決算発表でもVWとの提携報道の確認に「火のないところに煙は出ないというが火の気のないところに皆さんが煙をつくっているようだ。とくに関係ない」と否定した。提携会見で鈴木会長は「総理大臣が解散でウソをついてもいいのと一緒じゃないでしょうか」と釈明した。
2010年1月にVWがスズキ株の19・9%を約2千億円で取得することと、そのあとにスズキがVW株を約1千億円、2・5%を取得する(浮動株が少ないためまず1・25%、500億円を取得予定)ことが明らかにされた以外、具体的な業務提携の内容は公表されなかった。
80歳目前、したたか鈴木会長はどう動く
鈴木会長は「ハイブリッドだとか軽量化やディーゼルの問題、ディストリビューター、南米やアジア、アフリカはどうするかなど、グローバルでどこでも協力しあっていく」と話し、ヴィンターコルン会長は「われわれは欧州市場、スズキはインド市場のことがよくわかる。互いに情報交換して部品共通化を進めていきたい」と語った。
記者会見で鈴木会長が繰り返したのは「イコールパートナー」という言葉だった。企業規模、出資のインパクトを考えるとVWグループに組み込まれると見られても不自然ではないだけに、さまざまな質問に対してスズキの自主独立を強調した。GM、インド政府、日産自動車など世界中でより大きい相手と丁々発止やりあいながら協力関係を築いてきた名経営者らしく、主導権への強いこだわりを見せた。
フェルディナンド・ピエヒVW監査役会会長も見守る会見では終始、鈴木会長を立てたVW側だったが、両社の関係がどうなるかは予測できない。三菱自動車に対するダイムラー・クライスラーのような支配欲むき出しの進め方は避けると見られるが、彼我のメリットデメリットをどうバランスさせるか。トップからプロジェクトメンバーまで、どういう方針で共同の仕事に臨むかが今後を大きく左右する。提携交渉に当たった会長の長男、鈴木俊宏取締役専務役員の動きにも関心が集まりそうだ。「年齢は7掛け」が口癖の鈴木会長は年明けに80歳を迎える。