世界85か国以上で使用されている糖尿病治療薬「DPP-4阻害薬」が、日本で初めて、万有製薬によって発売される。新薬の名は「ジャヌビア錠」。日本ではじつに10年ぶりの新しい糖尿病治療薬の登場で、糖尿病患者には朗報だ。1日1回の経口投与で、食事に関係なく服用でき、血糖改善の有効性や副作用に関する安全性にも優れているという。
糖尿病は「生活習慣病」といわれるように、日ごろの食生活や生活態度によって知らぬ間に進行する。糖化した血液成分が全身の毛細血管を傷つけるため、網膜症や腎症などのさまざまな合併症を引き起こす危険がある。日々の食事療法や適度な運動で進行を遅らせることはできるが、治療の成果がなかなか表に現れないこともあって、つい実行が疎かになりがち。血糖値を抑える薬を処方してもらって飲み続けている患者も少なくないはずだ。
4人に1人が糖尿病とその予備軍
2007年の厚生労働省の調査によると、糖尿病人口は、糖尿病が強く疑われる人は約890万人。糖尿病の可能性が否定できない人(予備軍)を加えると約2210万人と推定され、20歳以上の4人に1人が糖尿病とその予備軍に属する。これにメタボリック・シンドロームの疑いがある人とその予備軍を加えると、40~74歳の男性の2人に1人が、女性の5人に1人が対象となる(国民健康・栄養調査)。それだけに、万有製薬が2009年12月11日に発売を予定している新薬への期待は大きい。
今回、万有製薬が発表した「DDP-4阻害薬 ジャヌビア錠」は、血糖値を下げるインスリンの働きを活発にする「インクレクチン」というホルモンの効き目をより強める、まったく新しいタイプの薬だ。
DPP-4阻害薬は、インクレチンがすい臓でつくっているインスリンの細胞に働きかけて、インスリンを多く分泌させる作用をもつが、インクレチンは分泌するとすぐにDPP-4という物質によって壊されてしまう。DPP-4阻害薬は、このDPP-4の働きを封じ込めて、インクレチンがすい臓に働くようにして、インスリンを増やして血糖値を下げる。
「DPP-4」の働きを抑えて血糖改善を促す
糖尿病の薬というとこれまで、肝臓でのグルコース(ブドウ糖)の生成を抑制する「インスリン抵抗性改善系」や、すい臓からのインスリンの分泌を促進する「インスリン分泌促進系」、食後中の炭水化物をグルコースに分解する酵素の働きを阻害することで糖の吸収を遅らせて血糖値を下げる「食後高血糖改善系」があった。
ただ、低血糖症や肥満、むくみなどの副作用を伴うため、患者側もきちんと服用せず、血糖コントロールを妨げる結果になっていた。
「ジャヌビア錠」は、1日1回の投与で食事の影響を受けないので、いつでも気がついたときに服用できる。関西電力病院院長の清野裕先生は、「糖尿病治療薬は長期にわたって効き目が持続することが第一。引き続き長期臨床試験を観察する必要があるものの、今回の新薬は身体に負担をかけず簡便に服用でき、体重増加や低血糖症を起こさせない点はいいのでは」と話す。国内における12週での臨床試験ではヘモグロビンA1cの低下効果も認められ、既存の糖尿病治療薬との併用による有用性も認められた。
そもそも、日本人はインスリンの分泌が欧米人に比べて低い。同じように太っていても、欧米人に比べて日本人のほうが糖尿病になりやすいのはそのためで、過食を避けるのはもちろん、運動不足の解消や食生活の見直しも忘れてはならない。