黒く塗られた紙幣「ブラックマネー」による国際的詐欺事件について特集したTBSの番組が、論議を呼んでいる。警察に通報しなかったため、犯人を国外に逃走させてしまったとブログなどで異論が相次いでいるのだ。TBSでは、「取材の過程については、お答えできません」とだけコメントしている。
アメリカ軍将校を名乗る黒人の男が、黒く塗られた「1万円札」にボトルの中の「薬品」を注ぐ。すると、1分もしないうちに、1万円札の模様がくっきり現れた。お札には、本物を示す透かしもあった。
イラク戦争当時、政府が石油利権を得るため裏金用意
TBS系で2009年12月5日夕放送の「報道特集NEXT」で紹介された詐欺事件の手口だ。
番組では、被害にあった東海地方に住む60代の元会社社長Aさんに半年も密着して、犯罪の手口を浮き彫りにした。それによると、Aさんは07年12月、黒人の男から突然、50億円を山分けしようと取引を持ちかけられた。
この大金は、イラク戦争当時、日本政府が石油利権を得るために裏金を用意し、輸送を担当した米CIAが防犯上の理由で黒く染めたというのだ。そして、男は、お札を元に戻すには高価な薬品が必要だとして、前出のような実験をし、Aさんを説得して、30万ドル、日本円でなんと約3000万円も支払わせた。
男が09年6月に再び接触してくるようになって、TBSも取材を始め、その結果、男はナイジェリア人で、将校の肩書きもなく偽名を使っていることが分かった。また、民間の偽造通貨対策研究所に聞くと、同研究所が「ブラックノート」と呼んでいる国際的詐欺である可能性が濃厚になった。
取引日の9月10日、TBSは、Aさんの了解を得て、スタッフが男と接触し、実験した1万円札が見せ金で、あとは黒い紙切れであることを暴いてみせた。ところが、犯人はそのまま走って逃げてしまい、11月には、自宅におらず、すでに国外に逃亡していたというのだ。その後、Aさんが被害相談した警察が、男の行方を追っている。
「ヤフー知恵袋」やミクシィでも、番組が話題に
なぜTBSは、詐欺に気づいた時点で警察に通報しなかったのか――。
番組放送後、ブログなどでは、犯罪手口を詳細に明かしたその内容に驚く声とともに、こんな疑問が噴出している。
埼玉県の男性は、自らのブログ「医療報道を斬る」で、「詐欺の手口は出来るだけ多くの人に広めた方が被害を防げると思う気持ちもありますが、ちょっとTBSのやり方に納得できない」と漏らした。「犯人の住居も分かっているのに、逃亡の機会をたっぷりと与えています。手助けしているとしか思えません」と疑問を呈している。
また、Q&Aサイト「ヤフー知恵袋」やミクシィでも、番組が話題になっており、知恵袋では、「TBSは何を考えてるのか?警察に言ってたら捕まってたでしょ(怒)」といった質問が出され、論議になっている。
こうした指摘に対し、TBSの広報部では、「取材の過程については、お答えできません」とのみコメントした。その理由について聞いても、取材手法に問題がなかったのかを聞いても、回答できないとのことだった。
なお、ブラックマネーの手口は、アフリカで始まったともされ、1980年代から各国で米ドル紙幣などを使った犯行が多数報告されている。新聞報道によると、日本では、2000、03年に逮捕例が出ており、最近は、東南アジアでも日本人の被害が報じられている。偽造通貨対策研究所によると、日本円の1万円札を使った犯行は、08年末ごろから出始めているという。
ブラックマネーは、紙幣をでんぷん液に浸し、ヨウ素液を加えると黒くなることで作ることができる。それにビタミンCが入った水の「薬品」に浸すと、もとの白い紙幣に戻るカラクリだ。