大手マスコミ黙殺した橋下発言  「普天間関西へ」浮上の舞台裏 

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   沖縄の基地負担の軽減につながる議論に積極的に参加したい――普天間基地の移転をめぐって大阪府の橋下徹知事が表明した「関西受け入れ論」が波紋を広げている。橋下知事の発言が大きく報道されたのは2009年11月30日のことだ。しかしその2週間以上も前に、橋下知事は同様の発言を記者クラブの記者たちにしていたことが分かった。そのときは一切報じなかった新聞やテレビが一転して「一斉報道」に走ったのはなぜなのか。

   橋下知事はほぼ週1回のペースで開催している定例記者会見とは別に、毎朝登庁したときに、記者クラブの記者向けの「囲み取材」に応じている。大阪府の報道担当職員によれば、主な新聞・テレビの記者やカメラが顔をそろえるという。米軍基地の関西受け入れについて言及した11月30日の発言も、囲み取材でのものだった。

二度にわたって無視された「橋下発言」

橋下知事の質疑応答の一部始終がYoutubeで公開された
橋下知事の質疑応答の一部始終がYoutubeで公開された

   このときは橋下知事の発言を全国のテレビがニュース番組で流し、新聞も大きく扱ったのだが、実はそれより2週間以上前の11月13日にも、同じく囲み取材で橋下知事は

「沖縄の負担を軽減するために、基地の移転先として関西空港案を本気で国が論じるのならば、地元知事としてその議論の中にしっかりと入っていきたい」

という趣旨の発言をしていたのだ。だが、この「1回目の関空発言」は新聞やテレビで報道されることはなかった。大阪府の報道担当職員も「自分の知る限りでは、取り上げたメディアはなかった」という。

   4日後の11月17日。今度は衆議院の安全保障委員会で、沖縄県選出の下地幹郎議員がこの橋下発言を紹介。北澤俊美防衛相と岡田克也外相に「沖縄の基地の移転について、橋下知事に働きかけるつもりがあるか」と問いただした。この場にも国会担当の記者がいたはずだが、やはり橋下知事の発言がマスコミで報じられることはなかった。新聞やテレビは二度にわたって「橋下発言」を黙殺したのだ。

   ところが11月30日は事情が違った。橋下知事が「関西受け入れ論」を表明するやいなや、衝撃のニュースとなって全国をかけめぐったのである。きっかけを作ったのは、東京在住のフリージャーナリスト岩上安身さんだ。

フリージャーナリストの質問を機に「一斉報道」

   普天間基地の移設問題を精力的に取材していた岩上さんは「橋下発言」の存在を知り、衆議院の動画サイトで内容を確認したが、どのメディアも報道していないことに疑問をもった。そこで、自ら大阪府庁に乗り込んで知事に直接確認することにした。

   前日に大阪の家電量販店で購入したビデオカメラを携えて囲み取材の輪に加わった岩上さんは、基地受け入れについての真意を橋下知事にたずねるとともに、質疑応答の一部始終を録画してユーチューブ(Youtube)で公開することにしたのだった。

「普天間基地の問題に関して、もう一度、知事の考えをお示しいただきたい」

という岩上さんの質問に対して、橋下知事は「安保政策は内閣の専権事項なので、あくまでも個人的な意見として」と断りつつ、沖縄の基地問題に対する熱い思いを口にした。

「沖縄の地上戦というのは、沖縄の方に多大な負担をかけたので、本州・四国・北海道・九州の人間は沖縄の人達に十分な配慮をしなければいけない。沖縄の基地負担の軽減のために、みんなで一定の負担をすべきだと思っています」

   そして、沖縄戦で自決した大田実海軍中将の「沖縄県民かく戦えり。県民に対し後世、特別のご高配を賜らんことを」という有名な言葉を引用して、

「(大田中将の言葉を)僕らは胸に刻んでおかなくてはいけない。関西で、もしそういう話がくれば、基本的には(議論を)受け入れる方向で検討していきたい」

と語ったのだった。この発言が今度は一転して新聞やテレビで報じられ、閣僚を右往左往させるほどの大騒ぎになった。二度にわたって黙殺されたニュースに火をつけた格好になった岩上さんは、

「Youtubeにアップした動画を最初から最後まで見てもらえれば、僕が普通に質問して、橋下さんが率直に自分の言葉で語っている様子がよくわかる。いつ、だれから質問されようと、自分の信念を堂々と語るのだという強い思いが感じられた」

と話す。橋下知事はその後も、12月6日に花園ラグビー場で観客に向かって「みなさんで沖縄のことを考えましょう」と呼びかけるなど沖縄の基地問題について積極的な発言を繰り返しており、波紋は大きく全国へ広がろうとしている。

   降ってわいたかのような橋下発言だが、前出の大阪府の報道担当職員も、きっかけを作った岩上さんも「橋下知事の姿勢は一貫している」と口をそろえる。一貫していないのは、最初は横並びで発言を黙殺しておきながら、外部のジャーナリストが現れると突然、堰を切ったように一斉に報道した既存のマスコミのほうだろう。このような状況について、岩上さんは

「まるで便秘からいきなり下痢になったようで、気持ちが悪い。ここにも、マスコミ各社が一斉に足並みをそろえようとする『記者クラブ制度』の本質があらわれているといえるだろう」

と話している。

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