「モラトリアム法」実効性に疑問 金融庁の強大化に不安の声も

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   中小企業向け融資の返済猶予を促す「中小企業者等金融円滑化臨時措置法」が成立した。「リーマン・ショック」以降、仕事が激減する一方で、金融機関から貸し渋り、貸しはがしにあう中小企業が続出する中、亀井静香金融相の肝いりでまとめられた。

   ただ、同法は「モラトリアム」、つまり返済凍結という当初の強烈な打ち出しからは大幅に修正され、穏便な内容に落ち着いた。このため、現実の効果を疑問視する声が強い。

「効果」は、実施状況を金融庁に報告、公表するという点

   同臨時措置法は①金融機関に対し中小企業向け融資の返済条件変更や借り換えへ努力を求める②借り手が破綻した場合、銀行の貸し倒れの40%を公的に保証する③実施状況を金融庁に報告させ、その結果を公表する――などが柱で、期間は3年の時限立法だ。法制定に合わせて、金融庁が金融機関を検査する際の指針になる「金融検査マニュアル」も改訂し、返済猶予に応じやすくさせる。

   ただ、実際には、リーマンショック後、前の麻生自民党政権時代に、大掛かりな対応がされており、「今回の法律の効果は限定的」(中小企業の金融に詳しいコンサルタント)との見方が強い。2008年11月の金融検査マニュアル改定で、中小企業融資の返済条件変更(返済繰り延べや利率引き下げなど)について、「3年」で経営再建できる見通しがなければ不良債権としていたのを、「5~10年」で経営再建できればよいというように、規制を緩めた。併せて、緊急保証制度も設けた。

   この2つの効果は大きく、足元の倒産件数が沈静化する大きな要因になったとされる。今回の臨時措置法はこうした流れを後押しはする。ただ、「金融機関の努力を促すだけだから、『加速』するまでの力はないだろう」(前出のコンサルタント)という見方が関係者の間では多いようだ。

   今回の臨時措置法の「効果」で、むしろ目立つのは、実施状況を金融庁に報告、公表されることだといわれる。

   大蔵省から金融庁に移った金融行政の特徴は「脱・護送船団」。1行たりとも潰さない代わりに、箸の上げ下げまで指図する行政からの転換だ。実際、90年代後半以降、経営不振の金融機関の破綻が相次いだ。金融庁は検査で不良債権を洗い出し、引当金を積ませ、それに耐える体力のない金融機関は容赦なく潰した。こうして、「コワモテ」の金融庁が出来上がった。

金融庁がコワモテの力を背に対応を迫る

   他方、小泉内閣の竹中平蔵金融相時代、不良債権処理を優先するあまり、金融機関が中小企業向け融資の回収に走る「貸しはがし」の嵐が吹き荒れ、社会問題になった。そこで、世論に押された金融庁は、中小企業向け融資の不良債権認定を事実上緩める方向に大きく舵を切った。2003年ごろの話だ。こうして中小企業融資に「理解がある」金融庁のもう一つの「優しい」顔も出来上がった。

   今回の臨時措置法の「報告義務」は、金融庁が金融機関に対し、コワモテの力を背に、優しい対応を迫る構図だ。

   民主党はマニフェストの政策各論に、「地域金融円滑化法」制定をうたっている。今回の臨時措置法は、その一部の先取りといえるものだ。民主党の地域金融円滑化法案は、金融庁が、地域住民、中小企業への融資、地域産業振興への貢献などについて金融機関が同取り組んだかを報告させ、金融庁は報告を元に金融機関の地域への寄与度を評価し、公表するという内容。金融庁が「公表」した結果を見て、判断するのはあくまで利用者ということではあるが、そこは「コワモテ」金融庁のこと。「金融機関は今以上に金融庁の顔色を伺うことになる」(地域金融に詳しい学者)といった指摘もある。

   検査要員確保などを名目に行革の中でも着々と職員を肥大化させる金融庁の栄華は続きそうだ。

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