郵政事業への「厳しい目線」捨ててはいけない
郵便配達の本質は個々の家庭向けの物流サービスにある。宅配便や新聞配達などを含めて、それらを総合的にどのように持っていくのが最も合理的なのか、そこから検討すべきであろう。
たとえば、郵便配達を朝のゴミ収集の時間程度に早めてくれたら出勤前に手紙を読めるという人も少なくないだろう。あるいは早朝に新聞と郵便物を一緒に配達してくれれば配達の手間が一回分減るなどと考える人もいる。こういうアイデアは民営化すれば必ず俎上にのぼるところだと思う。
コスト面でも、現在はがきと封書の基本料金はそれぞれ50円と80円。これは広い国土のアメリカ郵便料金よりもずっと高い。1981年初頭にそれぞれ30円と60円だったのに、それ以降はインフレ率を遙かに上回る率で値上げされた。もちろん値下げなど思いもつかない。いまはただでさえネットに押されているのに、これでは郵便業の衰退をさらに進めるだけであろう。このあたりの費用対効果の検討も重要だ。
民営化の過程でわれわれはいくつかの改善の成果をみた。つまりファミリー企業の問題が明らかにされたり、銀行の為替取引とオンラインでつながったり、窓口のサービスが改善した・・・といった点だ。しかし、さらに改善すべき点も山ほどある。
ともあれ、大事なことは国民が「お上のやることは仕方ない」というあきらめの気持ちを捨てることだ。「1円でも安いスーパーで買い物をする」という消費者の厳しい目線を捨ててはいけない。もしも郵便が国営事業として踏みとどまったとしても、そのあり方は国民みんなのために、せめて「仕分け会議」のように公開で議論すべきだろう。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして活躍。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。