日本郵政が「ペリカン便」を買収へ――日本郵政グループの郵便事業会社である日本郵便が日本通運との間で進めてきた事業提携を抜本的に見直し、日本通運と共同で設立した宅配事業会社「JPエクスプレス」を完全子会社化する方向で検討に入ったと、報じられた。日本郵政は「まだ決定したわけでない」としているが、斎藤次郎社長は会見で「これがいま一番の課題で、年内にはきちんとした方向を出したい」と発言。統合解消も視野に入れた検討をしていることを認めた。
日通の「ペリカン便」の日本郵政の「ゆうパック」。宅配便業界の3位と4位がタッグを組んでヤマト運輸(1位)と佐川急便(2位)を追撃するため、共同出資のJPエクスプレスが設立されたのは、2008年6月のことだ。しかし当初09年4月に予定されていた宅配便事業の統合は遅れに遅れ、いまだに実現していない。
日本郵政は「ペリカン便買収報道」を否定
直接の原因は、麻生政権の佐藤勉・前総務相が準備不足などを理由に認可を保留したことにあるが、政権交代に伴う日本郵政の経営陣刷新で統合そのものが暗礁に乗り上げることになった。ゆうパックとペリカン便の統合は、民間出身の西川善文前社長の主導で進められたもので、「郵政民営化見直し」の流れのなかで新しいトップに就任した斎藤次郎社長からすれば、そのまま受け入れるわけにはいかないからだ。
郵政民営化反対の急先鋒だった亀井静香・国民新党代表が郵政・金融担当相に就任した09年9月の段階で統合解消の可能性がささやかれていたが、動きが表面化したのは11月26日。「日本郵政、ペリカン便を買収へ」というニュースが共同通信や日経新聞などによって報道されたのだ。
それに対して、日本郵政は翌27日、「JPエクスプレス社を精算し宅配便事業を統合する方針を固めたという事実はない」とホームページなどで発表。日本通運も「いまのところ、日本郵政からそのような働きかけはない。当社としては従来通り、統合に向けた準備を進めていく」(広報部)としている。
だが、日本郵政の中で日通との提携解消を視野にいれた検討が進められているのは事実だ。斎藤社長は11月27日の記者会見で「これが実は、一番頭の痛い問題です」と率直に認めたうえで、次のように社内での議論の方向性を明らかにした。
「なぜこういう経営判断がされたのか、理解に苦しむ」
「この問題については、考え方は3つしかない。一つは、いまのプロジェクトをそのまま続ける。もう一つは一部の新聞で報道されたように、子会社してやる。3番目は、精算してやめてしまう。この3つの方法しかないわけですが、いまお願いしているのは『原点に立ち戻って、ゼロの視点で、このうちのどれがいいかを真剣に検討してくれ』ということです」
JPエクスプレスは09年9月の中間決算で、純損益で248億円の赤字を計上。資金繰りも危うい状態になっているため、11月26日には親会社の日本郵便の臨時取締役会が、100億円を上限した緊急融資を決めたばかりだ。いまは日々、赤字を垂れ流している状態。斎藤社長もその点を認め、「一刻も早く結論を出したい」としている。
しかし、日通との提携を一方的に解消すれば多額の違約金が発生する可能性もある。そのようなことから、斎藤社長の口からは「前の経営陣から受け継いだ、私にとって最大の難題」という言葉がもれた。また「このプロジェクトは非常に性急に進められた」「なぜこういう経営判断がされたのか、理解に苦しむ」と、西川前社長の経営責任を問うかのような発言も飛び出した。
斎藤社長の真意はどこにあるのか。郵政問題に詳しいジャーナリストの町田徹さんは会見のあと、
「おそらく日通との統合を解消すると高い違約金を払わなければいけないので、JPエクスプレスを吸収するのと自前の営業でやっていくのと、どちらがコストをかけずに問題を解消できるのか悩んでいるのではないか。また、前経営陣の経営判断について『理解に苦しむ』と言っていたが、西川前社長たちの経営責任をどう追及していくのか。JPエクスプレスの問題は、その橋頭堡になる可能性もある」
と話していた。