インフルエンザで肺が黒くなって死ぬ――。ウクライナでこんな患者が出ていると欧米などの一部メディアで報じられ、新型インフルが強毒化したのでは、と波紋を呼んでいる。しかし、現地調査したWHOは突然変異を否定しており、真相は謎のままだ。
欧米などの一部医療系メディアのサイト記事には、血で固まったのか、炭のように真っ黒になった肺のレントゲン写真が載っている。これがウクライナで死んだインフル感染者のものだというのだ。
「スペインかぜ」に似ている?
いくつかのメディアの情報をまとめるとこうだ。ウクライナでは、2009年10月末ごろからインフルエンザの感染者が約15万人、死者が50人出るなどして、被害が急拡大した。そして、11月18日には、感染者が約145万人、死者が328人と10倍近くにまで膨れ上がった。
そして、インフルエンザで死んだ人は、悲惨な最期を迎えたとされる。現地の医師によると、肺の中に血液や水分がたまる肺水腫になり、そのまま大量に出血して全身の穴から血が吹き出したともいう。
こうした症状について、メディアでは、1918年に流行した「スペインかぜ」に似ていると報じている。当時は、第1波後にウイルスが突然変異して強毒化し、第2波では、世界で5000万人もの死者を出した。
ウクライナでは、今回の流行は「スーパーインフルエンザ」と呼ばれているという。新型インフルの強毒化の可能性もあるとして、近隣諸国にも不安が広がっている。ウクライナのユシチェンコ大統領は、専門家の話として、新型や季節性、カリフォルニアの3種のインフルエンザが混合して変異し、攻撃力の強いウイルスになった可能性があると明らかにしている。
この騒ぎで、WHOは11月2日から現地調査に乗り出し、ウイルスを英ロンドンの研究所に送って、分析した。そして、17日になって、予備テストで新型インフルが検出されたとサイト上で明らかにしたものの、ウイルスの突然変異については否定した。
政治的なプロパガンダの可能性も
ウクライナの新型インフルについて、厚労省の結核感染症課では、「WHOの調査結果では、病原性の変化が確認されていません」として、しばらく静観する考えだ。
現地では、インフルエンザについての情報が混乱しており、メディアの報道も必ずしも根拠がはっきりしない。ウクライナ大統領選が2010年1月17日投開票の予定であることから、情報に政治的な意図があるのでは、とも報じられるようになっている。低支持率に悩んでいることから、感染拡大を口実に、選挙を延期したり、反対派を抑えたりしようとしているのではないかというのだ。
ブログで新型インフルのウォッチングをしている近畿医療福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)も、新型インフルの強毒化について、懐疑的な立場だ。
「今のところ、突然変異の可能性は高くない感触を持っています。肺が真っ黒のレントゲン写真もなぜ記者が入手できたのか疑問ですし、死者などの数字も、すべてが新型インフルとは限りません。現地では、大量出血して死んだという報道は、最近少なくなり、いかに医療施設が貧弱かといった報道に変わりつつあります。ウクライナでは、ユシチェンコ大統領とティモシェンコ首相がライバル同士ですので、政治的なプロパガンダの可能性もあるかもしれませんね」
もっとも、勝田教授は、突然変異の可能性がまったくないわけではないとみる。
「集めたウイルスの少なくとも半分は新型インフルエンザだったようですが、ロンドンの研究所は、まだ最終的な結果を出していません。その点が気色悪いですね。3種のウイルスが混合して変異することは、確率はそんなに高くありませんが、理論的にはありえます。肺ペストだという情報については、そうならもっとバタバタ亡くなるはずなので、そうではないでしょう。第2波となる可能性はまったくゼロではありませんので、日本でも、注意して見守る必要があると思います」