ネット上の「仮想空間」で土地売買をすると大きな利益を得られるとして、会員を増やしていたビズインターナショナル(埼玉)が問題になっている。国民生活センターなど「消費者窓口」に寄せられた相談は合計1000件以上、2009年度だけでも480件に達した。「セカンドライフ」にも一時の勢いはなく、仮想空間ビジネスが衰退した今、儲かることはあるのだろうか。
同社が運営する仮想空間サービス「エクシングワールド」。渋谷、新宿といった現実の日本を模した仮想空間で、07年のPR動画では、難しい操作もなく、誰でも簡単に利用できると説明。「リアルライフで満足できなかったあなた、第2のステージで夢を果たしてみませんか」と謳い、仮想空間上でアバターに着せる洋服だけでなく、現実世界の品物も売買できるなど、様々なビジネスができるとPRしている。そして、最も手軽にもうかるのが「不動産ビジネス」だという。
40万円の「ビジネスキット」販売
既存の仮想空間サービスでも、成功しているのはサービス初期の段階で土地を購入した人だとし、「既に海外では何人もの億万長者が生まれています」と夢をあおっている。一般ユーザへのサービス公開は09年だが、「プレメンバー」になると優先的に土地を購入できる。08年2月には、東京都渋谷区などのエリアから販売が始まった。
同社はこのプレメンバーに「エクシングワールド」のマニュアルDVDやIP電話などがセットになった約40万円の「ビジネスキット」を販売し、更に代理店契約を結ばせていた、という。契約者が知人にキットを販売すれば人数によってボーナスが得られる仕組みで、宮城県によると会員数は09年6月時点で2万3000人。同社の08年10月期の売上は44億9000万円にもなったという。
09年9月には強引な勧誘をしたとして、同社に対し宮城県から4か月の業務停止命令が出ている。「みんながやる前に始めれば、君たちも芸能人のような印税収入を得ることが出来る」「うまく行くから。必ず儲かるから」と説明していた。確実に利益が出るとする判断材料の提供は特定商取引法で禁止されている。高校時代の友人に「ちょっと話がある」と呼び出され、飲食店で5時間にわたり執拗な勧誘を受けたり、キット40万円の支払いに消費者金融の利用を勧められたケースもあったという。
国民生活センター(東京)によると、各地の消費者センターなどには10月29日までに1025件もの相談があった。07年度は51件だったものの、08年度が488件、09年度が486件だった。
「若い人、ネット当たり前だから警戒しない」
しかし、07年に鳴り物入りで日本上陸した「セカンドライフ」が1年経たずに「過疎化」するなど、仮想空間でのビジネスは利益に繋がりにくいというのが定説になりつつある。なぜ、未だに相談件数が減っていないのか、ITジャーナリストの井上トシユキさんも、
「セカンドライフも今はすっかり聞きませんよね。今更なぜ、という感じはします」
とした上で、
「ただ、今でもネットに詳しくない人はやはりいて、ネットで素晴らしい成功が待っていると説明されても、そうだと思ってしまうのです」
と指摘する。意識的にネットを使っている人なら「仮想空間」「ネットカジノ」といった言葉を聞いただけで警戒するが、
「特に今の若い人達は物心ついたときからネットを使っています。私たちが毎日乗っている電車がひっくり返る訳ないと思うように、当たり前に思っているが故に警戒心が薄いのです」
と話している。
また一方で、そもそも仮想空間上での土地売買ではなく、キットを知人に売って、そのうち幾らかを自分の懐に入れるのが主目的になっている、という見方もある。
当初09年6月開設予定だった「エクシングワールド」は、2度の延期を経て10月15日に試作版が公開された。日本列島を北から南まで忠実に再現するとしていたが、この時点で実際に開発されていたのはごく一部のエリアだけだった。