ETC(自動料金収受システム)搭載車の高速道路料金を割引する「1000円高速」が、地方のフェリー業界に嵐を巻き起こしている。山口県のフェリー会社「防予汽船」は2009年10月1日、山口地裁に民事再生法の適用を申請、北九州市の「阪九フェリー」は大型フェリー6隻のうち2隻を売却する方針を決めた。いずれも不況下での業績悪化に、「1000円高速」による利用者減が追い打ちをかけた結果で、民主党政権が掲げる高速道路無料化への風当たりが強まりそうだ。
防予汽船は「1000円高速」が始まってからフェリー会社としては初の民事再生法適用申請となった。同社は1959年に創業し、山口県柳井市と松山市を結ぶ航路「オレンジライン」の愛称で親しまれてきたが、ここ数年の燃料費高騰で経営不振に陥った。
「まだまだ倒産が発生する可能性がある」
09年春から高速道路割引が始まると、フェリーの利用者は激減し、4~5月の乗船台数は前年同期比3割以上の大幅減で、業績は急速に悪化。6~7月には運賃を最大4割値下げするという捨て身の対抗策に出たが、利用者は完全には戻らなかった。同社の長井頼雄会長は会見の中で、「今のままでは、まだまだ(倒産が)発生する可能性がある」と述べ、フェリー業界が直面する厳しい状況を嘆いた。
北九州市と阪神間を結ぶ阪九フェリーも10月に入り、保有する大型フェリー(約1万5000㌧)2隻を売却する方向で、東南アジアなどの企業と交渉に入ったことを明らかにした。同社のフェリーは4月以降、トラックや乗用車の利用が20~30%落ち込み、売上高も約3割減少した。収益改善に向け、10月から北九州市と大阪府泉大津市とを結ぶ航路を1日往復2便から1便に減らす大きく減少した。収益改善に向け、10月から北九州市と大阪府泉大津市とを結ぶ航路を1日往復2便から1便に減らすこととなり、これに伴って、余剰になるフェリーを売却する必要に迫られたのだ。9月末には従業員約380人のうち、派遣社員やパート計50人を削減、正社員30人をグループ会社などに出向・派遣し、大規模なリストラにも踏み込まざるを得なくなった。
高速道路無料化に反対する署名活動始まる
一方、商船三井傘下の関西汽船(大阪市)とダイヤモンドフェリー(大分市)は10月9日、親会社を設立したうえで、営業活動を一本化すると発表した。早ければ3年後に経営統合を目指すという。業績が苦戦する中、体制を改めて整備し直し、効率化を進めようという狙いだ。
全国のフェリー会社など約600社で作る日本旅客船協会は10月21日、新政権が掲げる高速道路無料化に反対する署名活動を始めた。「経営を圧迫する高速道路無料化には断固反対する」と呼びかけ、全国でスクラムを組み、徹底抗戦する構えだ。「高速道路だけを重視する政策は不公平」との声はバス業界からも強まっており、新政権にとってはいっそう重い課題になってきた。