ホームレスに生卵を投げつけたと称する衝撃的な動画がミクシィなどにアップされ、騒ぎになっている。ただ、これは神戸大の学生がホームレスに扮した自作自演だったことが分かった。とはいえ、ホームレス差別につながりかねないだけに、関係者は、怒りを露わにしている。
ミクシィのサイトに2009年8月16日に投稿された動画には、こんな衝撃的な説明がついていた。
「仲間の一人がホームレスのふり」
「助走をつけ力投した生卵が顔面(口)に直撃。口から血が出てました。ちなみにこれでも起きませんでした」
動画を見ると、短パン姿の若い男性がこちらを振り向き、何かをつかむ仕草をみせる。そして、画面の奥には、布団を掛けて仰向けに寝るホームレス風の男性の姿が。仲間3、4人から「よしっ」と声がかかると、若い男性は5、6メートルほど助走をつけ、植え込みの塀に駆け上がった。
「そりゃー」
塀からこう叫んで飛び降りながら、寝ている男性に何かを思い切り投げつけるようにしたのだ。仲間から「完璧!」と言われると、若い男性はこちらを向いてVサインをした。その間、25秒ほどだった。
この動画は、なぜか10月28日ごろになって、2ちゃんねるなどで、内容がひどすぎると話題になった。そして、投稿者がミクシィのプロフィール欄で、パナソニック内定の神戸大学生などと明かしていたことから、情報サイトなどが大学や企業に問い合わせるほどの騒ぎになっている。
もし襲撃が事実とすれば、犯罪にもなるが、動画には、いくつかの不審点があった。まず、ホームレス風の男性が、顔に生卵が当たって飛び起きる様子もなく、腕を動かすなど元気そうだったことだ。動画では、生卵が本当に当たったのか、確認できる部分もなかった。
そこで、関係先に取材すると、動画投稿者がアルバイト先と言っていた神戸市内のアパレル店店長は、こう明かしたのだ。
「本人からは、仲間の一人がホームレスのふりをしていたと聞きました。生卵で襲撃したというのは、自作自演だったということですよ」
「ミクシィの仕組みを十分に知らず、こんな騒ぎに」
一方で、店長は、「誤解を生むし、社会的に問題があります。うちも迷惑しています」と話す。そして、このアルバイトを2009年10月29日付で解雇したことを明らかにした。
この騒ぎで、神戸市内の別のチェーン店の店長ブログにコメントが700件以上も殺到して炎上し、この店長がブログで29日、まったく無関係だとするお知らせを更新している。
神戸大学では同日、騒ぎを受けて、広報室がコメントを発表し、動画投稿者は同大の学生であることを明らかにした。
それによると、この学生は8月に数人のグループで、神戸・三宮駅前の広場でパフォーマンスをした。別の友人がホームレスに扮し、その一部をビデオに撮って、ミクシィにアップしたというのだ。ただ、友人だけで見る手続きをしたつもりが、全体に公開されてしまい、29日朝になって騒ぎに気づいたという。学生は、「ミクシィの仕組みを十分に知らず、こんな騒ぎにつながってしまい、申し訳ありません」と言っているといい、同大では、軽率な行為だとして、所属学部長が口頭で厳重注意した。
パナソニックでは、広報担当者がこの学生が内定者であることを認めたが、事実関係はまだ本人に確認している段階だという。確認が取れ次第、適切に対応するとしている。
ホームレス支援関係者によると、実際の襲撃は今も全国各地で起きており、若者たちが生卵を投げつけるのは珍しくない。学校でのいじめと構図は同じで、特定の弱者を攻撃することで仲間内の連帯感を高めているという。
支援団体の一つ「神戸の冬を支える会」では、動画の内容そのものにも問題があるとして、こう指摘する。
「こうしたことを面白がるようでは、ホームレスの差別につながりかねませんね。学生らの潜在意識に差別があるとみられても仕方がなく、こうした問題を今後、教育現場などで考えていかなければならないでしょう」