改正薬事法が施行され、胃腸薬の第1類、風邪薬や頭痛薬の第2類医薬品は通信販売できなくなった。通販会社や通販需要のある伝承薬メーカーは強く反発しているなか、医薬品のネット販売を主力とするケンコーコムはシンガポールに子会社を設立し、個人輸入という形式で日本への販売を始めた。
新しく立ち上げた通販サイト「ケンコーコムシンガポール」では、第1類、第2類を含む医薬品2432品を販売している。厚生労働省によると、個人輸入である限り薬事法に抵触しない。しかし副作用が起こった場合、国の救済を受けられないというリスクがあり、「適切でない」といっている。
「シンガポールは国のルールが明確で事業展開しやすい」
ケンコーコムは2008年度の売上高が100億円を突破し、「健康関連のECサイトとして国内最大級の規模」となったことを受けて、国際分野へ進出すると2009年10月26日に発表した。その足がかりとして、「ケンコーコムシンガポール」のサイトを立ち上げ、アジアNo.1を目指す。子会社のケンコーコム シンガポール プライベート リミテッドが運営する。
「2000年にケンコーコムのサイトをオープンした当初から海外進出する構想がありました。いまアジアではEコマース市場が伸びています。一方、日本は改正薬事法で医薬品の通販を規制して閉塞感があり、日本を拠点として事業を拡大させるのは難しいと判断しました。シンガポールを選んだのは、物流が発達していること、ITインフラが整っていること、国のルールが明確で事業を展開しやすいこと、といった理由です」
広報担当者はこう説明する。
ケンコーコムシンガポールでは、日本で通販が禁じられている第1類、第2類を含む医薬品2432品を販売する。商品情報は日本語で書かれていて、購入する前に、体の状態に関する10項目以上にわたる質問に回答し、問題なければ購入できるという仕組み。薬剤師にメールで相談することもできる。
シンガポールに在住、滞在する邦人のほか、シンガポールから個人輸入するという形で日本国内にも販売するため、「改正薬事法の抜け道だ」と報じられている。これについて広報担当者は、海外進出が一番の目的であるとした上で、
「日本で第1類と第2類医薬品が通販できなくなり、困っているお客様もいらっしゃいます。個人輸入という形式になりますが、ご自身の判断で利用していただきたいと思います」
とし、「抜け道」として立ち上げたことについては否定している。
法に触れないが、問題はあるという意見も
一方、個人輸入にはリスクもある。国内の病院や薬局で購入した薬を服用して副作用が出た場合、国から医療費を給付されるが、個人輸入は救済制度の対象にならない。送料の問題もある。「ケンコーコム」では1回の合計額が3990円以上の場合は無料、それ以外の場合は全国一律490円としているが、「ケンコーコムシンガポール」で購入して日本に発送すると、1回の買い物合計額が8000円以上の場合は無料、それ以外は一律650円かかる。さらに商品代金と送料の合計が1万6500円を超える場合は、別途関税がかかる。また、ケンコーコムでは返品できるが、ケンコーコムシンガポールでは受け付けない。購入はいわば、自己責任ということになる。
改正薬事法が09年6月1日に施行され、医薬品はリスクの高い順に第1類、第2類、第3類に分けられた。胃腸薬の第1類、風邪薬や頭痛薬の第2類医薬品は対面販売に限定され、通販できるのはビタミン剤やうがい薬の第3類だけだ。
ヤフーや楽天などの通販業者や、通販需要のある伝承薬メーカーは「商売が成り立たない」と反発している。医薬品のネット販売を主力とするケンコーコムは、改正薬事法が施行された6月の医薬品の売上げが前月比62%減の3766万6000円となり、深刻な状況が続いている。シンガポールでの子会社の設立は苦肉の策だったとも言えそうだ。
ところでケンコーコムシンガポールのやり方は、問題ないのだろうか。医薬品の個人輸入を管轄している厚生労働省医薬食品局監視指導麻薬対策課の担当者は、
「個人輸入は薬事法の規制対象外で、輸入者の責任の下で行うことになっています」
といっている。
法に触れないが、問題はあるという意見もある。医薬品の通販を規制している同局総務課の担当者は、
「副作用の救済対象にならない個人輸入は適切ではないという認識で、以前から利用者に注意喚起をしています。それを助長させるものについては諸手を挙げて(賛成)というわけにはいかない」
と話している。