「新しい方針に従ってやります」という人まで「やめろ」というつもりはない――。これまで日本郵政の経営陣の全面刷新を唱えてきた亀井静香郵政・金融担当相がトーンダウンした。といってもこれは「踏み絵」のようなもの。財界の大物が並ぶ現役員が大臣に「反乱」を起こす可能性はあるのか。
亀井担当相は10月21日に日本郵政の次期社長として斎藤次郎氏の名前を発表している。その他の経営陣については具体的な名前をあげていないが、10月初旬から「全面刷新する」と述べており、小泉・竹中路線からの決別として総退陣を促すと見られていた。
奥田氏を中心に経営陣を再編?
日本郵政の人事について語る亀井静香郵政・金融担当相
しかし新社長発表の翌22日に「全部の方に辞めていただく必要はないかもしれない」と発言。23日の会見でも、
「新しい方針のなかで『やります』という方まで『やめろ』なんて、俺はそんな無情な男ではない。結果として、お残りになる方もいるし、お辞めになる方もいるだろう」
と総退陣を迫るわけではないという考えを口にした。
今後の役員の人選については、
「奥田さん(トヨタ自動車相談役)が指名委員会の委員長なので、あの方が斎藤社長と相談しながら、新しい経営陣の骨格が決まっていく」
と述べた。奥田氏は日本郵政の社外取締役の一人でもあるが、少なくとも奥田氏とは協調して日本郵政の経営を進めていきたいという意向を示したといえる。
「奥田さんを自らの陣営に取り込もうという政治的思惑」
亀井担当相はこれまで日本郵政経営陣の「全面刷新」を強調してきたが、郵政をめぐる一連の混乱から民間企業には引き受け手が少ないと見られている。
しかし斎藤氏のような官僚OBで固めれば、「脱官僚という民主党の公約に反する」という批判が強まるのは明白だ。亀井担当相の軌道修正はこれらの批判をかわす狙いもあると考えられる。
金融業界に詳しいジャーナリストの須田慎一郎さんは
「西川さんを除く取締役のなかでキーパーソンといえば、元経団連会長の奥田さん。彼まで追い出せば財界を敵に回すことになり、日本郵政の経営が立ち行かなくなる怖れがあったので、その協力を取り付ける必要があったということだろう。また、小泉・竹中路線をバックアップしてきた奥田さんを自らの陣営に取り込もうという政治的思惑も働いているはずだ」
と分析する。現経営陣の今後の動きについては、
「竹中さんに最も近い位置にいた奥谷禮子さん(ザ・アール社長)は辞任する可能性が高いが、牛尾治朗さん(ウシオ電機会長)や丹羽宇一郎さん(伊藤忠商事会長)といった他の取締役は機を見るに敏な人たちなので、軌道修正して生き長らえるのではないか」
と推測している。
ただ、郵政民営化という基本路線では亀井氏と現役員はもともと180度考え方が違う。それを押し殺してまで残ることはないのでは、という見方もあり、「反乱」が起きる可能性を完全には否定できない。