日本郵政の次期社長が元大蔵事務次官の斎藤次郎氏に内定したことを受け、「民から官への揺り戻しだ」として新聞各紙は決定を疑問視している。明確に人事を批判する社もある。
斎藤氏は、旧大蔵事務次官在任中の細川連立政権で、「国民福祉税」構想に関与したとされ「10年に1人の大物次官」との声もあった。民主党は、08年の野党時代には、国会の承認が必要な日銀総裁人事で「大蔵省のOBだから」という理由で政府提案を拒否し、総裁の席が空席になるという混乱を招いたという経緯がある。
産経「二重基準だといわれても仕方あるまい」
こうしたことから、従来のスタンスとの整合性が問題化している。人事が決まって一夜明けた2009年10月22日の各紙の社説でも、人事に対して疑問を呈する声が相次いだ。
産経新聞の「主張」では、やはりこの「大蔵OB」という点を問題視。平野博文官房長官が、この矛盾点に対して明確に回答できなかったことを指摘しながら、
「政権を取ったら『脱官僚の解釈も変わった』では国民は納得できない。二重基準だといわれても仕方あるまい」
と論じている。日本経済新聞も
「小沢氏との関係に配慮した面もあろう。だがこれでは、鳩山政権が売り物にする『脱官僚』路線との食い違いに対する疑問を晴らせない」
と、同様だ。
毎日新聞は「まず斎藤氏の力量と手腕がよくわからない点」を疑問視した上で、やはり、前出の2紙と同様に、これまでに民主党が掲げてきた「官僚の天下り拒否」「脱官僚依存」という方針との食い違いへの違和感を表明した。
読売だけが「起用をためらう理由はない」
朝日新聞は、かなりストレートな批判を繰り広げている。「民から官へ、逆流ですか」と題して、政権交代後も
「民間との公平な競争を確保するという民営化の基本原則は守られるべき」
とした上で、
「民間出身の優れた経営者の下で組織を活性化させることが必要条件」
と主張。これに反して官僚出身の斎藤氏が抜擢されたことについて、
「株式会社の形は維持されても、実態は官業へと後退するのではないか、と心配でならない」
と批判している。
他紙との違いが際だつのが、読売新聞だ。「意外な大蔵次官OBの起用」と題して、批判が多い官僚OBの起用については
「適材適所であれば元官僚といえども、起用をためらう理由はない。民主党が人材活用の手法を転換したのなら歓迎である」
とした上で、
「従業員20万人を超す巨大企業を率いるだけに、手腕が問われるのはこれからだろう」
と、表だった批判を避けている。当分は「お手並み拝見」といったところのようだ。