「全国民の7人に1人以上が貧困状態」という統計が初めて明らかにされる中、生活保護の「母子加算」が復活する見通しとなった。ところが、過去の新聞報道を見ると、復活を求めてきた人の中には「沖縄旅行に行きたい」「回転ずし40皿」といった極端な例もあり、「実は、生活保護を受けていない人よりも、ぜいたくなのではないか」という疑問の声もあがっている。
「母子加算」は、18歳以下の子どもがいる一人親の生活保護世帯に上乗せされてきたもので、支給額は、都市部で子ども1人の場合で月額約2万3000円。
生活保護受けていない母子家庭の方が貧しい?
約10万世帯を対象に支給されていたが、04年に「生活保護を受けている母子家庭への支給額が、生活保護を受けていない母子家庭の消費水準を上回っている」という調査結果が出たことから、段階的に削減が進み、08年度末に全廃された。
これに対して、全国からは復活を求める声が相次いでいたのに加え、マニフェスト(政権公約)に母子加算復活を掲げていた民主党が09年8月の総選挙で政権を獲得。鳩山首相は09年10月19日、長妻厚労相に年内の母子加算復活を指示し、支給再開がほぼ確実な情勢だ。
ところが、母子加算の復活を求める人の発言をめぐって、ちょっとした議論も起きている。例えば朝日新聞の10月14日朝刊では
「部活で使うサッカーシューズを新調できず、足元を丸めてはいている」(北海道小樽市)
「4歳の娘が生活費を心配(するようになった)。何か買ってほしいと言わなくなった」(北海道北見市)
などど、生活に困窮している実態が紹介されている一方、一部の発言の中には、批判を集めているものもあるのだ。政権交代前の09年8月21日の毎日新聞では、京都市の46歳の母親と18歳の長男の世帯での、母子加算が打ち切られる前のエピソードが掲載されているのだが、
「月1度の回転ずしがささやかなぜいたくだった」
との書き出しで、
「向き合って座り、積み上がった40枚以上の皿を見る時だけは、貧しさを忘れられた」
などと綴られている。これに対して、ネット上では
「40皿は多すぎる」
「どうして、子どもはアルバイトをしないのか」
といった批判の声があがっている。一方、母子加算の減額処分の取り消しを求めて訴訟を起こしていた広島市の原告女性は
「『沖縄の水族館に行きたい』という長女の夢をかなえたい」(09年10月1日、朝日新聞)
などと発言。これに対しても、やはり
「沖縄よりもずっと安く行ける水族館は沢山ある」
「どのレベルまでを(憲法で保障されている)『文化的な生活』として許容するのか」
などと批判が起こっている。
いったん貧困に陥ると抜け出すことが困難な構造
母子加算については他にも批判が出ている。例えば、舛添要一厚労相(当時)が09年8月18日の演説で、「年越し派遣村」について
「4000分の求人票を持っていったが誰も応募しない。大事な税金を、働く能力があるのに怠けている連中に払う気はない」
などと発言したことについて批判を浴び、8月25日になって、会見で
「怠け者発言は、生活保護の母子加算の話をずっとやった時に基本的に言ったつもり」
などと釈明した。
ところが、市民団体6団体が「母子世帯の実態と現行の母子家庭施策をまったく理解していない」などとして反発。発言の謝罪・撤回を求めた。6団体は、8月27日付けで送付した抗議文の中で
「生活保護を受ける母子世帯の4 割は、世帯主が育った家庭も生活保護を受けている。いったん貧困に陥ってしまうと、そこから抜け出すことが困難な社会構造が存在する」
などと主張したが、舛添氏は総選挙後も、
「現金給付は反対。チャンスと能力がきちんと担保されれば、しっかりやってもらえると思うので、いろいろなやり方があると思う」(9月8日会見)
と、母子加算の復活には否定的な見解のままだった。