東京都国分寺市は、生活音によって引き起こされる隣人同士のトラブルの防止や調整をはかる条例案を可決した。生活音を出す人に対して、度重なるクレームをつけた者を「規制」するという全国的にも珍しい条例だ。
つきまとい、乱暴な言動、無言電話、汚物の送付などが該当
  国分寺市の新条例は「生活音に係る隣人トラブルの防止及び調整に関する条例」。2009年10月1日にあった市議会で条例案が可決され、12月1日から施行される。条例は、生活音をめぐって隣人同士がトラブルとなった際、「生活音」を出す人ではなく、それに対して「度重なる」迷惑行為をした人を「規制」するという内容だ。
トラブルがあった際、具体的にはどういった対応がされるのか。何らかの生活音を発し続けたAさん、それを不快に感じたBさんが迷惑行為で返すケースを想定する。迷惑行為とは条例によれば、つきまとい、乱暴な言動、無言電話、汚物の送付などが該当する。
反復される迷惑行為に困ったAさんが市に相談し、条例に相当する迷惑行為と認められれば、市は警察や弁護士といった第三者に相談した上で、Aさんに解決方法を助言したり、Bさんに行為をやめるように要請したりすることができるという。それでも迷惑行為が続く場合には、警察や裁判所へと連絡する。
この条例が制定されたのは、市民による陳述書がきっかけだった。市内のマンションに住む50代男性(当時)が2006年、800人近くの署名を集め、市に対して陳情したのだ。新聞各紙によれば、この男性は隣人から、ピアノや風呂の音をめぐってクレームをつけられ、その後、民事訴訟に発展していたという。
音を出す方は加害者意識がない
この問題に詳しい「行政書士小野法務事務所」の小野知己さんは、国分寺市の条例制定に、「過剰行為を抑止できるという意味では、評価できるのでは」と指摘する。
「生活音によって、トラブルに発展することはよくあることです。たとえば、下の階の人間のドアの開け閉めの音がうるさくて、嫌がらせを受けていると感じた上の階の人間が、ある時、帰宅を待ち構えて首をしめようとした殺人未遂事件もありました」
ほかにも、上下階の人同士が生活音をめぐって、天井をつついてやり返したり、あるいは、どなりこんでいったりしていくという話はよくある。ただ、小野さんは「集合住宅という構造上、仕方がない部分はある」という。赤の他人同士が一つの建物を共有しているからだ。
「音を出す方も加害者意識がないのが、問題点。だから本当は法律・条例ではなくて、人間関係が大事だと思うんです。挨拶をしたり、話を交わしたりして、コミュニケーションをとれれば、いいんですけどね」
国分寺市では、「音によって引き起こされる隣人トラブルが、重大な事件となってしまうのを未然に防ぐのも狙い。隣人同士では、解決が難しい場合もあるでしょう。トラブルに対して、市が携わっていくことで、市民の良好な生活環境を整えられれば」と話している。