政府が自らリスクを負えばいい
憲法上の問題もある。金融機関に返済猶予を強制させる政策は「財産権は、これを侵してはならない」という憲法第29条第1項違反の疑いが強い。同法第2項には「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」とあるが、「公共の福祉」の名のもとに正当な融資契約を突然反故にすることはどう考えてもおかしい。
政府がどうしても中小企業に資金を援助したいのならば、銀行に返済猶予を無理強いさせるのではなく、政府自身がリスクを負ってカネを出すのが本来、筋というもの。当初の満期日に借り手の代わりに政府が銀行に資金を返済してあげれば、少なくとも銀行のバランスシートを傷めることはない。
たとえば、現状でも地方銀行などに公的資金を資本注入する改正金融機能強化法の趣旨は、中小企業の資金繰り支援にあり、これが間接的ではあるが中小企業向け融資に回っている。おそらく亀井大臣はそういった仕組みでは不十分というのだろう。とはいえ、今の政府に現状以上の、中小企業や個人の住宅ローンを肩代わりするカネなどない。そこで、銀行に返済猶予を強制させよう、という短絡的な発想になったのだろう。
亀井大臣は経済の専門家の意見を十分に取り入れないといけない。経済担当閣僚は日本経済の舵取りを任されたパイロットだ。ど素人が好き勝手に操縦していたら、日本経済は必ず失速する。金融担当大臣の最大の使命は金融システムを正常に、円滑に動かすことであって、持論を強引に推し進めることではない。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして活躍。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。