亀井静香金融・郵政改革担当相がぶち上げた「返済猶予(モラトリアム)法案」が国会に提出されることがほぼ確実になった。政府の検討チームがまとめた原案は亀井担当相の当初のアイデアに沿うものとみられ、同担当相も「これで中小企業に元気を出してもらえる」と上機嫌だ。だが負担を強いられる金融機関はもちろん、中小企業の関係者も大歓迎というわけではない。
「私が当初考えていたような方向で進んでいる」
中小企業の支援策について説明する亀井静香郵政・金融担当相
亀井担当相は2009年10月9日、閣議後に金融庁で開かれた記者クラブ主催の会見で、中小企業の債務の返済を猶予する制度の原案について触れ、
「いろいろ批判もあったが、私が当初考えていたような方向で法案の検討が進んでいる。11月の臨時国会の冒頭に出せると思う」
と自信を見せた。会見に参加した記者によれば「機嫌がよさそうだった」とのことだ。その後に開かれたフリーやネット、雑誌記者向けの会見でも亀井担当相の表情は明るく、ある記者が法案についての感想をもとめると、
「(返済猶予法案は)いいところに落ち着きそうですよ!」
と威勢のいい答えが返ってきた。
返済猶予制度の原案は会見当日の朝刊各紙で報じられた。その内容は「猶予期間は最長3年」「元本だけでなく金利の一部も猶予」といったもので、「1年間の時限立法」とされるものの、亀井担当相が想定していた案に近い。原案は10月9日にもとりまとめられ、10月下旬にも召集される臨時国会に提出される予定だ。
運転資金を貸さないということはさせません!
だが、不況で苦しむ中小企業には福音と思える返済猶予制度も、金融機関や納税者にとっては「想定外の負担」を強いることになりかねない。さらに救済対象の中小企業のすべてが両手をあげて歓迎しているわけではない。東京都内の出版系中小企業の経理担当者は
「長年経理に携わってきた者からすると、焼け石に水にすぎない。むしろ返済猶予をすると負債が減らず、企業の財務体質は改善しにくくなるので、金融機関からの資金調達が困難になるだけではないか」
と疑問を投げかける。フリー記者向けの会見でも、英フィナンシャル・タイムズの記者から「最終的に問題を先送りするだけで、どこかにしわよせがくるのではないか?」という質問が出たが、亀井担当相は「そんなことはわかっている」とばかりに堂々と答えた。
「ローンの返済を猶予したからといって、新しい事業展開をしていくための資金だとか、運転資金を貸さないということはさせません! 中小の金融機関の貸し出しが不自由にならないような手当てをいま一生懸命、検討しているところなんですよ」
亀井担当相のプランでは、金融機関に返済猶予を認めさせるだけでなく、追加融資も断るなというわけだ。そうなれば当然、金融機関の経営を圧迫することになる。ある銀行関係者は、
「返済猶予というが、金融機関に対する強制力はどの程度なのか。そこがポイントになる。銀行は返せる見込みがあれば待つこともできるが、その見込みがない貸し出し先に『待て』と言われても、それはできない相談。債権が毀損して最終的に困るのは預金者だから、貸せない人には貸せませんよ」
と困惑した様子で語る。金融機関の経営が苦しくなったら公的資金で救済すればいいという安易な道筋もみえるが、その財源はどこからもってくるのか。