日銀は2009年10月13、14日に開く金融政策決定会合で、金融危機後の緊急措置を解除する「出口戦略」の議論を本格化させる方針だ。日銀は「異例の措置を長期化させると、金融市場にゆがみが生じかねない」として早いうちに解除への道筋をつけたい考え。ただ、返済猶予(モラトリアム)の法制化に動く亀井静香・金融担当相は猛反発しており、出口戦略の明確化は、政府方針への逆行と見なされかねない。解除戦略を探る日銀にとって、モラトリアム論議が「目の上のこぶ」になっている。
日銀内部では解除論が勢いを増している
日銀は緊急危機に伴い企業の資金繰り対策として、社債やCP(コマーシャルペーパー)の買い入れのほか、0.1%の固定金利で担保の範囲内なら無制限に貸し出す特別オペレーション、米ドル支給オペレーションなどを実施している。いずれも年末から年度末までの時限措置で、特に年末に期限が来る社債・CP買い入れと特別オペについては、延長か解除かを近く決める必要がある。
既に大企業の資金繰りは改善し、CP買い入れは、応札額が購入予定額を下回る「札割れ」が続く状態。超低金利で資金供給する特別オペも、「金融機関の利ざや稼ぎの材料になっている」(外資系証券アナリスト)との見方がある。こうした措置が長期化すれば、長短金利が過度に低下するなどの懸念もあり、日銀内部では解除論が勢いを増している。
ただ、中小企業の金融環境はまだ厳しく、金融機関からの融資について、元本・金利ともに返済を猶予してほしいとの要望が強い。日銀が10月1日に公表した9月の企業短期経済観測調査(短観)でも、中小企業の資金繰り判断指数(DI=資金繰りが「楽である」から「苦しい」を引いた値)はマイナス18と、過去の景気後退局面と比べても低水準だった。
このため、亀井金融相を中心に返済猶予の法制化に向けた動きが加速。08年12月に民主、国民新、社民の3党で国会に提出した「貸し渋り・貸しはがし防止法案」を軸に、近く具体案を固める見通しだ。
「中小企業対策は財政出動でやってもらうしかない」
金融政策面での配慮すら求められかねない状況に、日銀は「金融政策でできるのは、銀行が貸し出しをしやすい条件と整えるところまで。中小企業対策は財政出動でやってもらうしかない」(幹部)と予防線を張る。しかし、政府が中小企業の資金繰り対策を進めている時期に、金融引き締めと受け止められかねない出口戦略の駒を進めれば、政府の反発を招く懸念もある。
そうした中で、日銀が企業の資金繰り支援として実施しているCPや社債の買い取りを12月末で解除する検討に入ったと一部で報道された。亀井金融担当相は10月6日の会見で、「日銀は時々、寝言みたいなことを言う」と猛反発。モラトリアム法案を提唱している亀井氏としては、「とんでもない」というわけだ。
奇しくも、亀井金融相は自民党政調会長を務めていた2000年8月、ゼロ金利解除を決定した日銀に対し批判の論陣を張ったこともある「因縁の関係」。景気の下ぶれから中小企業経営がさらに圧迫されることが想定される中、日銀の対応によっては、政府による日銀批判が強まる可能性もある。