万引きが、グループ化したり、親が関わったりして悪質化している。これに業を煮やし、万引き犯に人件費などの損害賠償を請求する書店なども出てきた。全国ですでに100店以上に上るという。
小学4年女児、2人を率い150点も盗む
「もう世も末だと思いますよ。酷いといえば、小学4年の女の子はすごかったですね」
中部地方で90店ほどを出す三洋堂書店(名古屋市)の総務担当者は、こうため息をつく。
なんでも、この女児は、2008年12月に万引きが見つかり、それまでに94点もファンシー系の文具を盗んでいた。それも、グループ3人の主犯格として、見張り役を付けるなどして次々に犯行に及んでいたのだ。ほかの2人も、計35点もの万引きが判明している。
「最近は、ファンシー系が小学生に人気で、自分で使ったり、誰かにあげたり、趣味的な感覚で集めているようですね」
万引きは、こればかりではない。その後も数十点が分かったほか、09年3月20日には、同じ店で7点を盗んだのが見つかった。被害は、この女児だけで150点、約3万円に上る。
書店などでの万引きは、「認知」件数が10年前より1.5倍増え、年間15万件ほどに達している。書店関係者によると、最近は、グループ化するなどますます悪質になっているという。
購入・運送などに多額のコストをかけた商品が盗まれるため、書店などの経営を大きく圧迫している。このため、万引き商品の額ばかりでなく、人件費分の損害賠償を犯人側に要求する店も出始めた。警察の事情聴取などに従業員が割かれた時間を時給換算で請求するということだ。
三洋堂書店では、05年8月から賠償請求を始めている。この4年間で181件、計80万円ほどを請求。督促状を出すなどして、9割が支払いに応じている。平均が4000~6000円で、多いケースでは6万円の支払いがあったという。前出の女児のケースも、1万円ほどを払ってもらった。
賠償請求の効果で、被害が半減も
北陸地方などでディスカウント店20店を出すPLANT(福井県)は、三洋堂書店と同様の損害賠償請求を2008年7月から始めた。ここでも、悪質な万引きに手を焼いている状態だ。
ある店舗では09年9月下旬、プリンター用インクカートリッジや化粧品が棚からゴッソリ盗まれた。カゴに大量に積んでそのまま買った顔をして出て行く「カゴ抜け」という手口らしい。防犯カメラには、大人の男が映っており、見張り役をつけるなどグループでの犯行だった。従業員が少ない夜を狙っており、被害総額は30数万円。警察に被害届を出しているが、まだ捕まっていない。
ただ、万引きの損害賠償請求を続けた結果、09年7月までに255件、計140万円が支払われた。督促などをしており、9割近くが応じたという。万引きに厳しいとの評判が地域に広がり、万引きGメンの調べで、被害も半減した。PLANTの総務担当者は、「お金をもらうのが目的ではなく、万引きをさせないのが目的です。粗利の薄いディスカウントストアでは、死活問題ですからね」と話す。
万引きがこれだけ深刻化している背景には、モラル低下の問題があるようだ。
最近は、親が子どもに万引きを強制させたり、子どもが万引きした店にクレームをつけたりするケースが相次いで報じられている。全国万引犯罪防止機構によると、最近、子どもからこんなメールが来たというのだ。
「親が万引きしてしまいました。どう対応したらよいですか」
親を拘束した警察が、自宅に電話をかけてきたらしい。
同機構の調べでは、万引き犯に損害賠償請求する書店などは、全国ですでに100店以上に上る。首都圏ではまだ聞かないというが、今後ますます増えていきそうだ。