新聞・テレビなど「マス4媒体」の広告出稿量の落ち込みが加速する中、英国では「ネット広告費が初めてテレビ広告費を抜いた」という調査結果が発表され、波紋を広げている。ただ、この背景には「英国独特のテレビ広告業界事情」もあるようで、欧米各国がすぐにネットに抜かれそうだ、というわけでもないようだ。
オンライン広告4.6%増、テレビ広告は16.1%減
調査は英国のインターネット広告機構(IAB)とプライスウォータハウスクーパースが行ったもので、2009年9月末に発表された。それによると、09年1月~6月の英国でのオンライン広告費は前年同期比4.6%増の17億5200万ポンド(2530億円)で、テレビ広告は同16.1%減の16億3900万ポンド(2360億円)。広告費全体に占める割合を見ると、オンライン広告が23.5%なのに対して、テレビ広告は21.9%。やはり、オンライン広告がテレビを追い抜いた形だ。
オンライン広告の出稿量のうち19%が技術系企業で、通信関係、金融関係、エンターテインメント関係が続く。報告書では、広告効果がどれくらい出たかを測定のしやすいことが、オンライン広告の伸びの背景にあると見ている。
BBCが強い分テレビ広告市場も小さい
もっとも、この調査には懐疑的な声も相次いでいる。
英BBCやインディペンデント紙が伝えるところによると、「インターネットに抜かれた」側のテレビ業界側は、メールによるキャンペーンや検索エンジン連動型広告も「オンライン広告」として集計されていることを問題視しているようで、
「これらの要素は別々に評価されるべきで、十把一絡げに評価するのは公正ではない」
などと言い張っている。
一方、「英国独特の事情がある」と見るのは、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルなどの米紙だ。英国では、広告市場に対するテレビ広告に割合が他国に比べて小さい、というのがその理由だ。この背景には、英国最大のテレビ局は、CMを流さない公共放送のBBCだということがある。いわば、「BBCが強い分、民放が弱い。その分、テレビ広告市場も小さい」という構図だ。
日本の広告事情に目を転じると、英国とは大きく状況が異なるようだ。電通が09年2月に発表した「日本の広告費」によると、08年のインターネット広告費は前年比16.3%増の6983億円。一方のテレビ広告費は前年比で4.4%落ち込んでいるが、額としては1兆9092億円もある。両者の差が縮まっているのは確かだが、日本が英国のような事態を迎えるまでには、時間がかかりそうだ。