八ツ場ダム、川辺川ダムなどの建設中止方針が打ち出され話題になっているが、今度は熊本県の大蘇ダムが注目を集めている。既に本体は完成しているものの、水漏れがひどく、補修工事に膨大な経費がかかると見込まれている。鳩山由紀夫首相も「無駄なダム」と決めつけるが、担当の赤松広隆農林水産相からは、完成を目指すとも受け取れる発言も飛び出し、先行きは不透明だ。
赤松農水相「八ツ場とか、川辺川と性質が違う」
大蘇ダムは、近くにある大谷ダム(熊本県高森町)が老朽化したため、熊本県と大分県の農地2000へクタールに農業用水を供給する目的で、1979年に国が建設を開始した。05年に堤防は完成したものの、ダム湖全体から水が大量に漏れていることがわかり、現在も調査を行っている。事業費も当初の130億円から593億5000万円にまでふくらんでいる。
赤松農水相は09年9月29日の閣議後の会見で、大蘇ダムは、「農業用水が欲しい」という地元の要望で建設しており、反対運動もないことを挙げ、「今もめている八ツ場とか、川辺川と性質が違う」と説明。「是非、地元の期待、地域の皆さんの期待に応えられるように、農水相としても、努力していきたい」と建設継続の意向を示した。09年度までに使った事業費は592億7000万円で、工事の進捗状況は「99.9%」であるという。
ただ一方で、農業用水の需給については「別に切羽詰まってはいない」という。将来、地域で農業が盛んになった場合、「水が足りない可能性が十分にある」が、大蘇ダムから水が漏れても、残った分で「十分農業ができる」としている。また、他にコストのかからない方法があればそれも検討する、と含みを残した発言をしている。そして、
「まず、現地関係者の人たちの話を聞かないと。農水省にいて、東京から想像でできるものではない。きちんと調査をしたい」
と結んだ。
地域の農家は長年慢性的な水不足になやまされている
一方、ダムによって恩恵を受ける側の、大分県竹田市荻町の農家団体、「荻柏原土地改良区」の役員は、
「そもそも今ある大谷ダムでは水が足りないから作ろうということになった」
と語る。地域の農家は長年慢性的な水不足になやまされている。そのため、18時間ごとに順番に農家に水を供給するシステムになっていて、夜間も働かなくてはならない。
「普通の農家のように、朝起きて働いて、夜は就寝したいということです」
また、赤松農水相が持っているデータは実状と合わないとも指摘する。
「九州の農政局がメンツを保つために、古いダム(大谷ダム)で足りていると報告しているのです。現場を見ればわかります。赤松農水相が地元に入るとのことだったので、一歩前進と捉えています。マニフェストに中止と書かれていないのが救いでした」
民主党「鳩山首相の発言、重みある」
民主党のマニフェストには「川辺川ダムと八ツ場ダムは中止」と書かれているが、大蘇ダムには言及していない。ただ、鳩山首相が総選挙前の7月、大蘇ダムに関し「我が党からすれば、なぜこんなダムに更にお金を投入するのか、という思い。無駄なダムという位置付けになる」と発言していた経緯がある。民主党はどう考えているのか、政策調査会に聞いてみたところ、
「マニフェストに書かれていない公共事業は、時代の流れに合っているのか、地元の意見がどうなのかを見て、個別にゼロベースで精査していきます。しかし、鳩山首相がそう発言していたのであれば、重みがあるのでは」
との返答だった。