建設中止方針で一躍脚光を浴びた八ッ場ダムに、一目見ようと観光客が殺到している。車で来る人も多く、渋滞などの問題が起きているようだ。地元の中止反対については、批判の声もあり、自治体などは対応に苦慮している。
連日1300人もの人が押し寄せ、国道渋滞
「通常の休日は、せいぜい1日300人ぐらい。それが、このシルバーウィーク中は、連日1300人もの人が押し寄せました。建設中の湖面2号橋の風景がよくマスコミに取り上げられるので、見に来るんですよ」
国交省の八ッ場ダム工事事務所の広報担当官は、驚いた様子でこう話す。
民主党がマニフェストで中止方針を掲げ、前原誠司国交相が2009年9月23日に現地視察。これに対して、ダム予定地にある群馬県長野原町など地元の激しい反対ぶりが連日報じられている。テレビなどで話題になっているため、一目見ようと観光客が殺到しているのだ。
高さ87メートルもある2号橋の人気で、すぐそばの広報センター「やんば館」にも、大勢の観光客が。1日で入館者が1000人も超えるのは、10年前の開館以来初めて。担当者も、「今の時期は、紅葉前なので人があまりいないんですが…。橋げたの前で、記念撮影をする人が多いですね」と言う。20台ほどのスペースがある駐車場も、ほぼ満車状態。急きょ、駐車場係が出て、対応に追われた。
この騒ぎで、八ッ場ダムは一躍、観光名所のように。ただ、普段はのどかな山林地帯のため、押し寄せた観光客でダム近くの国道が渋滞している。
「事故はまだないですが、路上や広場に車を駐めたりして、危険ですね。特にマスコミが、勝手に入ったりしてマナーが悪いです」
と広報担当官。「首都圏の水がめを造っているので、普段から見に来てくれたら」と渋い表情だった。
また、これで地元が潤っているわけでもないようだ。
地元・長野原町のある旅館では、「草津や軽井沢に行く途中で、興味本位で見に来る人ばかり。宿泊客が増えているわけではなく、通過するだけですよ」。また、国道などに野菜直売店はあるが、ダム周辺に飲食や土産物の店はないという。
長野原町に賛否両論の声寄せられる
新聞やテレビでは、長野原町などの反対ぶりが大きくクローズアップされている。これに反発する人もいて、同町などに批判の声が相次いでおり、こうしたことへの対応にも振り回されているようだ。
同町の川原湯温泉観光協会では、ホームページ上の掲示板に書き込みが殺到して炎上状態に。2009年9月10日に、掲示板を一時閉鎖することを明らかにした。電話回線もパンク状態だという。読売新聞の22日付記事によると、「国が決めた事に対して自己利益で語るな」などと批判する書き込みが急増したといい、ホームページでは、「私達もその一つ一つに真剣にお答えするように努力はしてゆきますが、1通のメールで心が折れることもあります」と漏らしている。
ただ、地元に理解を示す声も多いようだ。
ダムにある広報センター「やんば館」の関係者は、こう明かす。
「『ここまでダムができているのに、今さら中止は考えられない』と言ってくれる人は多いです。大部分がそうで、『美しい景観が失われる』という人はいませんでした。やっと先が見えてきたのにと、地元ではガッカリしていますよ」
長野原町に寄せられているは、賛否両論の声だ。
ダム対策課によると、22~23日にかけて、200通ものメールが町に殺到した。意見は、「頑張れよ」から「長野原町はおかしい」まで、分かれているという。また、賛否両論を反映してか、「民主党には賛成だけど、地元はかわいそう」などという声も寄せられている。電話も話し終わるとまた鳴るといい、対応にてんてこ舞いの様子だ。
前原国交相は、地元の理解を得るまで中止の手続きを進めないと言明した。しかし、建設中止に賛成する声も多いことを考慮してか、中止の方針自体は変えていない。