大幸薬品やクックパッド、三菱総合研究所など新規株式公開(IPO)が続いているが、2009年は「少数精鋭」型になっている。IPOを果たした企業の数は2009年9月末までに16社しかないが、株価は比較的好調に推移している。「厳しい公開基準をくぐり抜けてきた企業だけに、評価は高い」(野村証券金融経済研究所・企業調査一部の元村正樹氏)というわけだ。
抗がん剤のキャンバス初値付かず
東京証券取引所へのIPOは、8月はゼロ。9月は三菱系シンクタンクの三菱総合研究所と、抗がん剤の研究・開発のキャンバスの2件にとどまった。
三菱総合研究所は2009年9月14日に東証2部に上場した。初日は終値で3030円。売り出し価格は2200円だったので、それを約38%上回って引けた。ある証券関係者は、「三菱ブランドと、官公庁や民間企業での調査研究への評価。コンサルティング業務が成長性の見込める分野であることが総合的に評価された」とみている。
その勢いを上回ったのが、キャンバス。9月17日に東証マザーズへの上場を果たしたが、初日から買い注文が殺到。とうとう値が付かず、公募価格2100円の2倍超にあたる4530円の買い気配で取引を終えて翌日に持ち越し。
9月18日、初値は3730円。3900円の高値を付け、終値は3870円だった。
10月1日にはフィデア・ホールディングス(秋田県の北都銀行と山形県の荘内銀行)や池田泉州ホールディングス(大阪府の池田銀行と泉州銀行)、半導体・電子部品販売などのUKCホールディングス、雪印メグミルク(雪印乳業と日本ミルクコミュニティ)が、いずれも東証1部への上場を控えている。
東証によると、2009年のIPOは9月末までに16件(第1部、2部、マザーズの合計)。08年は54件だったので、これを下回るのは確実。30件を割り込むことになると、1992年以来17年ぶりとなる。しかも16件のうち、合併などによるテクニカル上場が6件、他の株式市場との重複上場が2件と、「純新規」となると8件しかない。
件数少なく、希少価値に個人投資家が注目
リーマン・ショック後の金融危機による株式市場の混乱を考えれば仕方のないところだが、市場や証券会社による上場審査の厳格化や、市場の混乱から計画どおりの十分な資金が調達できないこと、企業業績が悪化して株式の公開基準を満たさないことが、IPOが減っている原因だ。
しかし、潮目は明らかに変わった。流れをつくったのは2008年12月17日にマザーズに上場したグリーだ。同社の上場以降、「個人投資家の物色が増えてきた」(前出の証券関係者)という。
IT系として注目されていたグリーだが、その後も情報通信のソケッツや料理レシピの投稿・検索サイト、クックパッド(いずれも、マザーズ)が続いた。新型インフルエンザの流行を受けて伸びているのが大幸薬品(東証2部)や、医療機器メーカーの大研医器。クリエイトSDホールディングスやアインファーマシーズは医薬品・化粧品販売と、「医療」をテーマとする銘柄は人気だ。
こうした注目度の高さが上場後の株価にも反映されている。
野村証券の元村正樹氏は、「市場や証券会社などの審査基準が厳しくなる中で上場を果たした企業なので、投資家は売り出し前から注目していて評価も高い。リーマン・ショックから1年が経ったが、投資家心理が上向いてきた中で、IPO自体の件数が少なく希少価値であることも買いが集まる要因」とみている。
株式市場全体が上向いて、「企業業績が回復してくれば、IPO件数も増えてくる」という。