2006年に始まったばかりの新司法試験が、岐路を迎えている。合格率を引き上げ、法曹人口増加を目指して導入されたはずの新制度なのだが、合格率は初回から年々低下。ついに「3割割れ」と、過去最悪を更新した。当初は合格率「7~8割」が想定されていただけに、受験生からは「みんな、この制度は『国家的詐欺』だと思っている」との悲鳴も聞こえてくる。
当初は合格率を「7~8割」と想定
法務省司法試験委員会は2009年9月10日夕方、09年の新司法試験の合格者を発表した。合格者数は前年比22人減の2043人で、06年の新試験開始以来、前年割れは初めて。委員会が合格者の目安として掲げていた「2500~2900人」を大きく割り込んだ。合格率も年々低下が続き、09年は前年比5ポイント減の27.6%。初めての「3割割れ」で、過去最悪を更新した。
そもそもこの制度は、法曹人口の拡大を目指した導入されたもので、政府の司法制度改革審議会は、合格率を「7~8割」と想定。ところが、今回の試験では、全国に74あるロースクール(法科大学院)の修了者7392人が受験したのだが、合格率が最も高かった一橋大でも、合格率は62.9%。「7割」とは隔たりのある数字だ。
さらに、ロースクール別の合格率を見ると、かなりの格差があることが浮き彫りになる。
上位校(表)を見ると、北海道大(40.4%)まで8校が「4割超え」。一方、下位に目を転じると、08年には3校あった「合格者ゼロ」の学校は、さすがになくなったものの、61位の青山学院大学(9.0%)以下14校が「10%割れ」。特に最下位の京都産業大学に至っては、51人の受験に対して、合格者はわずか1人で、合格率は2.0%だ。
今回の結果を受けて、規模が比較的大きく、合格率が平均以上あるロースクールに通う学生(24)も、
「学生の間で動揺が広がっているのは間違いありません。このような状況だと、『学校でやらされているハードな勉強、試験のために意味があるのか?』と思ってしまいます。試験に受からせるために作ったロースクールなのに、制度を作った側は『受験テクニック偏重の教え方は良くない』と言う。僕らからすれば『じゃあ、どうすれば合格できるの?』という話になります。そもそも、存在が矛盾してるんです」
と悲鳴をあげる。
合格者数計画は「ペースダウン」
新司法試験は「受験できるのは法科大学院修了後、5年以内に3回まで」という制限があるだけに、学生にとっては、状況は絶望的だ。
この背景には、ロースクールの乱立がある。総定員は8500人にのぼるが、09年6月の文科省の調べによると、09年春の入学者が入学定員を下回ったのは59校で、全体の80%。うち13校が50%未満だったことがわかっている。一部では「授業料全額を奨学金として給付する」という手に打って出た学校も出現した。
このため、「過剰な定員が授業の質の低下を招いた」との指摘も根強い。さらに、司法試験の要求水準が変わらないことが、今回の低合格率に結びついているとの見方ができそうだ。
政府は、司法試験の合格者数を2010年までに3000人に増やす計画だが、この状況では目標達成は絶望的。日本弁護士連合会(日弁連)も、08年7月の段階で、計画の「ペースダウン」を求める方向に転じている。今後、ロースクールの定員の絞込みが進むのは必至だ。前出のロースクール生も、
「みんな、制度は『国家的詐欺』だと言ってますよ。自分が受験するのは2011年ですが、不安で仕方ありません」
と嘆いている。