金や原油、穀物といった商品相場に、再び投資マネーが流れ込んでいる。背景には景気後退による株価の「二番底」への警戒心があって、株式や債券への投資を控える傾向にある。なかでも、米ドル安の影響が大きいようだ。
投資マネー、株や債券から商品へ
景気回復の足どりが不透明ななかで、投資マネーの流れが株式や債券から「商品相場」へと移っている。その原因を、商品先物取引の光陽ファイナンシャルトレード(KFT)・熊本宏氏は「ドルの全面安にある」という。
たとえば、「09年のトウモロコシは過去最高の豊作でしょう。すでに市場はそれを織り込んで値下げ圧力がかかっていますが、相場は逆に上昇。そうなった一番の要因はドル安でしょう」(熊本氏)と話す。
2009年9月10日現在、ドル円為替は1ドル92円台で推移した。「円だけでみていると、大きな変化に思えないかもしれないが、ドルはユーロやポンド、フラン、クローネに対しても信用力が落ちている」ことを指摘。株や債券もさえず、「ドル離れ」した投資マネーが、行く場所がなくなり、商品相場へと流れているというのだ。
一方、原油価格は2009年6月に1バレル70ドル台に上昇したが、その後は一進一退を続け、「70ドル圏のボックス相場」にある。ニューヨーク・マーカンタイル取引所のWTI原油の9月8日の終値は1バレル71ドル10セントだった。
原油価格に詳しい、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至・主任研究員は「景気が回復すれば原油価格も上昇するのはそうなのですが、9月に入ったからといって(景気回復が)はっきりしたわけではありません」という。リーマン・ショック後の下落分を取り戻していて、大きな目で見ると「一進一退」で変わりない。「新たなマネーが流れ込んでいる、というのは少々言いすぎ」と冷ややかだ。
原油価格の高騰で、ガソリンは値上がり、航空機の燃油サーチャージも復活した。70ドルまで戻して、08年夏のような1バレル100ドル超も視野に入りそうだが、100ドルを超すと今度は物価の上昇懸念が出てくるので、「頭を抑えられる可能性がある」と、急激な上昇はないと予測する。
「金」にもっとマネーが集まる可能性も?
商品相場の中でも、金価格の上昇には目を見張る。9月に入って急騰し、指標となるニューヨーク先物相場は8日に一時、半年ぶりとなる1トロイオンス1000ドルを突破した。その後、調整もあって下げたものの、10日現在で950~960ドルで推移している。
田中貴金属工業によると、9月10日の小売価格は1グラムあたり3121円だった。前出の、KFTの熊本氏は「金人気は当面続く」とみている。というのも、米国債がまだ値下がりするとの観測があるからだ。
現在、米国債を買い支えている中国やロシア、ブラジルがこぞって買い控え、また米連邦準備制度理事会(FRB)による「買い取り」が10月で期限を迎えることなどが、「下げ要因」になる。米国債の信用力が弱まって、ドルも下落。その資金がさらに流れてくるというわけだ。
熊本氏は「今度1000ドルを越えると定着するだろう」と予測。「安全資産としての金の魅力は他の商品よりも大きい」ので、より金に投資マネーが集まる可能性も否定できないという。