民主党の鳩山由紀夫代表が、2020年時点での日本の温室効果ガスの削減目標を「1990年比25%減」と明言し、波紋が広がっている。この方針はマニフェストにも掲げられていたもので、「予定通り」とも言えるものだが、産業界からは早速、反発の声もあがっている。ところが、鳩山氏は、スピーチの場で「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の『前提』」とも発言。温室効果ガスを大量に排出している米国と中国が温室効果ガス削減に消極的とされる中、このままでは公約が「絵に描いた餅」になりかねない。
すべての主要国が参加しないと「目標実行しない」?
現段階で日本政府が公約している温室効果ガスの削減目標は、「2012年までに1990年比6%減」。ところが、現段階での日本の排出量は、すでに1990年比で9%増えているため、2年強で90年比15%減を削減しなければならないという厳しい状況に追い込まれている。
そんな中、民主党の鳩山由紀夫代表は09年9月7日、「朝日地球環境フォーラム2009」で行った講演で、これまでの政府目標よりさらに踏み込んだ「90年比25%減」を打ち出し、産業界が反発するなどの波紋を広げている。
もっとも、この数字は、突然浮上したものではない。民主党の温暖化対策の政策をめぐっては、09年8月の衆院選のマニフェストに、
「CO2等排出量について、2020 年までに25%減(1990 年比)、2050 年までに60%超減(同前)を目標とする」
とうたわれているほか、08年の通常国会には、この内容を盛り込んだ「地球温暖化対策法案」を提出してもいる。いわば、これまでの政策が、政権獲得で実行段階に移った形だ。
今回の鳩山代表のスピーチで、これまでと違うのは、
「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の『前提』」
だと述べた点だ。前出の法案の段階では、他国との関係については
「我が国に蓄積された知識、技術、経験等を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない」
という表現で、今回はいわば「主要国が枠組みに参加して初めて、日本も国際社会への公約を果たす」と前提条件を付けた形だ。
「発展途上国の削減目標は少なくあるべき」
ここで問題となるのは、温室効果ガスの排出量が世界で最も多い中国と、2番目に多い米国の動向だ。世界中の温室効果ガスの約4割を排出しているとされている両国は、これまでは、排出量削減の取り組みに消極的だとされてきた。つまり、両国の取り組みがなければ、今回の民主党の政策も「絵に描いた餅」になる可能性が高い。
ところが、米国については、09年に政権交代が起こってから、様子が変わりつつある。例えば、09年2月にオバマ政権が連邦議会に提出した予算教書では、2020年までに05年比約14%、2050年までに同約83%の削減方針を打ち出している。09年6月には、さらに踏み込んだ「ワックスマン・マーキー法案」が、下院で賛成219、反対212の僅差で可決されている。同法案で提案されている削減幅は、2020年までに05年比20%、2030年までに同42%、2050年までに同83%。排出枠をオークションにかけることなどを提案している。
一方の中国は、きわめて冷淡な反応だ。外務省のスポークスマンが9月8日の会見で
「国際社会は、各国の事情や発展段階を十分考慮する原則を堅持すべき」
と、いわば「発展途上国の削減目標は少なくあるべき」との従来の立場を繰り返した。
中国の英字新聞であるチャイナ・デイリーも同日、鳩山氏のスピーチの内容を報じたが、記事中には、気候変動についての専門家でもある中国石炭情報研究院の黄盛初院長が識者として登場。
「目標値はかなり高いが、工業国としての日本が、気候変動問題についてリーダーシップを取ることは重要」
と、「中国には関係ない」と言わんばかりの態度だ。
もっとも、ロイター通信が9月4日に報じたところによると、オバマ大統領が11月に予定している訪中の際は、温室効果ガスをはじめとする気候変動問題が主な議題になる見通し。米中両国の今後の動向が、民主党の今後の環境政策を左右するのは間違いない様子だ。