覚せい剤取締法違反で逮捕・起訴された酒井法子被告が出演していたため、「公開自粛」となっていた裁判員制度PR映画「審理」の再公開を嘆願する署名活動が起きている。この映画は、2008年に亡くなった映画監督・原田昌樹氏の遺作で、発起人の切通理作(きりどおし りさく)さんは「1人の映画監督の遺作が、ずっと観られなくなるのは悲しい」と話す。
「命を刻むようにして作っていった作品」
「審理」は、映画「旅の贈りもの 0:00発」や、テレビのウルトラマンシリーズなどを手掛けた原田監督が08年2月28日に52歳で亡くなる直前に完成させた事実上の「遺作」。酒井被告演じる主人公の主婦が、殺人事件の裁判員に選ばれるという内容になっている。製作費は約7100万円。最高裁はDVDとビデオ計約20万本を用意、全国の裁判所や役所などに配布し、上映や市民への貸し出しを行ってきたが、酒井被告の逮捕・起訴を受け、裁判所への配布分は上映・貸し出しともに「自粛」している。
評論家の切通さんは、09年8月18日から署名サイト「署名TV」で「審理」の再公開を願う呼びかけを始めた。その中で、作品が映画としてよくできているだけでなく、「癌を患った原田監督が命を刻むようにして作っていったものだ」と説明。「(酒井)被告への公的な判断が出て、それに対する世間の反応が静まったら、観賞可能な状況にしていただければということを、最高裁判所にはぜひお願いしたいと思います」と述べている。
3週間で450の署名集まる
切通さんはJ-CASTニュースの取材に対し、
「裁判映画というと通常いかめしいものですが、『審理』は酒井法子さんが演じる普通の主婦の視点から裁判員制度を描いた柔らかい雰囲気の作品。被疑者も含めて、お互いの人間性を認めていこうという原田監督の未来への遺言にもなっています」
と話す。切通さんは原田監督とは10年来の付き合い。監督の墓石には「審理」が作品名として刻まれ、戒名にも「審」の字が入っているという。
「社会が覚せい剤を許さないという声もありますし、今自粛することの是非は問いません。ただ、1人の映画監督の遺作が、50年、100年経っても観ることができないというのは悲しいことです」
また、特に恐れているのが「審理」が「作り直される」こと。原田監督の作品が否定されることにもなりかねないからだ。
署名は9月8日現在で450集まった。10月に入ったら最高裁に提出するとのことだ。果たして再公開されることはあるのだろうか。最高裁の広報課は、
「自粛は『当面の間』ということで、特に期間を決めている訳ではありません。『審理』を作り直すという予定も出ておりません。自粛が相当ではないという状況になりましたら再公開を検討します」
と話している。