ナチス・ドイツの独裁者、アドルフ・ヒトラーの著作「わが闘争」が日本でマンガ化され、売れ行きが好調だ。現在でもドイツでは出版が禁止されている「問題作」だが、読者の間から批判めいたものはほとんどないという。
ドイツ国内では「わが闘争」の出版は禁止
「わが闘争」は、ヒトラーがクーデター(ミュンヘン一揆)に失敗して収監されていた刑務所の中で部下に口述した内容がまとめられたもので、上巻は1925年、下巻は翌26年に発売された。ヒトラーが33年に政権を取ると、「ナチス党のバイブル」として、ドイツ国内ではベストセラーを記録した。終戦後、日本や欧米各国では翻訳版が発行されたものの、ドイツ国内の新刊書店では、現在でも「わが闘争」を手に入れることはできない。
第二次世界大戦直後の連合国の方針で、ヒトラーの著作物はドイツのバイエルン州が管理することになっており、「わが闘争」の著作権も同州が管理している。ドイツ国内では、「ネオネチの宣伝に使われる」「ホロコースト被害者の感情を傷つける」という理由で、同州が「わが闘争」の出版を禁じているのだ。
日本国内では、著作権法に「1970年以前に発行された著作については、発行から10年間、日本で翻訳されなかったものは自由に翻訳できる」との規定があることから、1973年に角川文庫から文庫版が発売されている。ただ、この文庫版の存在が広く知られている訳ではないだけに、今回のマンガ化で、この「わが闘争」に、にわかに話題が集まっているのだ。
さらに増刷を検討
漫画版は、出版社のイースト・プレス(東京都千代田区)が展開している「まんがで読破」と呼ばれる古典作品を漫画化するシリーズのひとつとして、2008年11月に発売。同社の担当者は、シリーズについて
「シリーズ自体、太宰治の『人間失格』でスタートしていますし、人間のドロドロしている部分が描かれたものを出版しようと考えていました」
と話しており、その流れのなかでの出版が決まった様子だ。マンガ版では、190ページにわたってヒトラーの半生が綴られているが、どちらかと言えば「伝記調」で、文庫版の「わが闘争」の内容が、そのままマンガになった訳ではない。通常、同シリーズでは3万5000部程度を売り上げるが、「わが闘争」は、すでに5万部が売れ、9月2日には朝日新聞にも掲載されたこともあり、さらに増刷を検討しているという。
同社によると、
「文庫版は長くて読みにくかったので、マンガになってうれしい」
といった声が寄せられているという。アマゾンの読者評価でも「文庫版と内容が大きく違う」といった声が目立つものの、5点満点で平均は3.5と、比較的評価は良好な様子で、出版したこと自体を非難する声はなりを潜めている。
マンガ版の最終ページには、「わが闘争」について
「偏った国家主義、差別的人種観を正当化した内容から、現在でもドイツでは法律により出版が規制されています。本書をきっかけに、読者の皆様が客観的・批判的にこの問題作の原典に触れ、当時の人権問題を考えていただければ幸いです」
との編集部コメントが掲載されている。