テレビがなぜ「新聞再販」報じないか 民主新政権のマスコミ政策に注目
(連載「テレビ崩壊」第10回<最終回>/ビデオジャーナリスト・神保哲生さんに聞く )

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マスコミ既得権益が何かを知らないことが多い

――民主党は、クロスオーナーシップの見直しを掲げています。

神保 日本にも「新聞とテレビとラジオを同時に持たなければ良い」という「集中排除原則」があります。この原則の見直しが進むはずです。ものすごい抵抗にあうと思いますが、彼らが着手できなかった場合は、こちらから後押ししないといけないと思っています。ただ、惜しいのは、このくだりが政策集「INDEX2009」にしか入っていなくて、マニフェストには盛り込まれていないことです。

――「INDEX2009」では、「日本版FCC」の創設もうたわれていますね。この意義は、どこにあるのでしょうか。

神保 ジャーナリズムの担い手でもあるテレビが、監視対象であるはずの政府から免許をもらうという現状が問題なんです。さらに、電波は国民の資産ですから、政府が恣意的に割り当てるのもおかしい。この2つの機能を、国民の代表である第三者機関が果たすべきだ、という議論です。
FCCに代表される独立行政委員会と呼ばれる第三者委員会は、政権交代があるからこそ中立性が担保されるものです。政府が委員を任命するので、当然政治性が入ります。ところが、政権交代のたびに、メンバーが入れ替わるので、結果として中立になる。独立行政委員会が出来ること自体は良いことだと思いますが、民主党の力が強すぎると、機能しなくなるのではないかという懸念を持っています。自民党にも、もうすこし踏ん張ってもらわないと…。

――政権が変わると、既得権益を持つ既存マスコミは「改革される側」。抵抗しそうですね。

神保 政権発足当初は、ハネムーン的雰囲気もあるかも知れませんが、民主党が、本格的に既得権益をはがそうとしたときが勝負です。メディアの側が「特殊法人などの既得権益も一理ある」という報道を始める可能性についても、気をつけるべきです。一般の人は、マスコミ既得権益が何かを知らないことが多い。報じ方によって「どっちが悪でどっちが善か」は、簡単に変えられてしまいます。そうなると、「やりすぎじゃないか」という世論が起こる可能性も皆無ではありません。今のところ、メディアは「お手並み拝見」というところでしょうか。

――神保さんは、10年前からインターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」を運営しています。民主党政権誕生で、ご自身の番組は、どのように変わりますか。

神保 これまでやってきたことを、粛粛と続けていくだけですね。会見のオープン化は、僕らにボールが投げられた状態です。ちゃんと勉強して質問しないといけない。マンパワーが許される限りやります。それ以外は大きく変わりません。ただ、多少取材できる領域が広がる可能性があるので、それは期待しています。
これからの僕らの仕事は、民主党政権をチェックすること。民主党側からすると「これまで友好的だと思っていた神保さんが、あの日を境に厳しくなった」と思ってもらわないと困ります。逆に言うと、自民党が、どのようにして政党としてのアイデンティティを回復するかについても見ていかないといけません。外側から見ると「民主党に厳しくて自民党に甘い」報道になっても不思議はありません。だって、少数野党の座に落ちた自民党は、もはやチェックされるべき主要な権力ではなくなってしまった訳ですから。むしろ、自民党が再起することが、民主党の暴走を防ぐという意味で、市民社会にとっては利益になるんです。

神保哲生さん プロフィール

   じんぼう・てつお ジャーナリスト。1961年東京生まれ。15歳で渡米。一時帰国し、国際基督教大学(ICU)教養学部社会科学科卒。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信などアメリカ報道機関の記者を経て1994年独立。以来、ビデオジャーナリストとして日米を中心とする世界各国の放送局向けに映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。2000年1月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任、現在に至る。

   著書に『ツバル─地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)、『ビデオジャーナリズム─カメラを持って世界に飛びだそう』(明石書店)、『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか? 』(ダイヤモンド社)など。専門は国際政治、地球環境問題、メディア倫理。特に近年は地球温暖化、非人道的兵器、民主党の政策を精力的に取材している。なお、代表を務める「ビデオニュース・ドットコム」(http://www.videonews.com/)では、「特集・民主党政権を展望する」を配信中。

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