衆院選で惨敗を喫した麻生太郎首相が、選挙後初めて官邸で「ぶら下がり取材」に応じた。これまでも、機嫌が悪いと記者に「逆質問」する場面が見られたが、今回は記者の質問に対して「ああ、ウラ取ってるわけね。普段取らずに書いてるけど」とイヤミを言ったりするなど、新首相の首班指名を直前に控えて、これまでになく険悪な雰囲気が漂う会見となった。
「普段(ウラ)取らずに書いてるけど。取ろうという心掛けが大切」
「ぶら下がり」は、通常であれば1日2回行われることになっているが、選挙後は休止状態が続いていた。内閣記者会の再三の要望に応じて、2009年9月2日夜、選挙後初めての「ぶら下がり」が実現したもの。18時53分から55分までの2分間行われたのだが、終始、これまでになく不機嫌な様子。2分間を振り返ってみると、こんな具合だ。
冒頭、女性記者が
「総理、衆院選お疲れ様でした」
と切り出すと、麻生首相は黙って小さく一礼。続いて、
「質問に入りますけれども、今日、民主党の岡田幹事長が官邸に申し入れに来ましたけれども、スムーズな政権移行に向けて、総理は具体的にどのような指示を出されているのでしょうか」
と、政権移行の進捗について記者が質問する。麻生首相は
「官房長官に(同じ内容の)質問があったんじゃないですか」
と、答えたくない様子。記者が
「あの、総理が出された指示ですので、直接お伺いしたいのですけど…」
と食い下がると、麻生首相は
「スムーズに移行できるように、なるべく協力するように。各省庁に連絡するように。話しましたよ。その通り官房長官、言わなかった?」
と、「逆質問」。記者が「おっしゃってますけれども…」と答えると、
「ああ、ウラ取ってるわけね。ああ、そうかね。ああ。記者としてまともですよ。ウラ取ろうという心掛けは。普段取らずに書いてるけど。取ろうという心掛けが大切」
とイヤミを言った直後、秘書官から「はい、終わりまーす」との声が飛び、麻生首相も「終わります」と帰ろうとした。
それを別の記者が「総理、総理、総理!」と引き留め、「あのー、もう1問」と、自民党の総裁選について話を聞こうとすると、麻生首相はさらに不機嫌さを増した。記者が
「(自民)党の総裁としてお伺いしたいのですが、今度の特別国会で…」
と質問しているのを遮る形で、麻生首相は
「党の総裁として答えることはありません。ここは内閣総理大臣に対しての質問だけにして下さい」
と回答拒否。記者が「いや、でも、これまでも答えてらっしゃいますけれども…」と食い下がると、
「それは、努力しただけ。今、答える必要はない。首班指名に関する質問? それに対して答えることはありません」
と突き放した。
「麻生さんは非常に子どもじみたところがある」
それでも記者が
「麻生さんの名前を書くことについて党内で異論があるということですが、、そのことについてはどのようにお考えになりますか」
と聞くと、麻生首相は
「党内のいろんな意見があるというのは、知らないわけではありませんが、党内の意見をどのように集約するかは党執行部が決めること。そうお答えしてあるんで、党内のこと、党の意見、今、執行部としては、聞かれるべき相手は幹事長。総裁に聞くべき話ではないと、頭入れておかれたらどうです? そういう具合に」
と色をなして反論。さらに、記者を指さしながら
「総裁の意見は幹事長に一任してあると言ってあるんだから、あなたが聞くべき相手は執行部。すなわち党幹事長。麻生総裁ではありません。頭の整理できた?」
と言い放ち、会見は終わった。
このように、これまでにない不機嫌さを見せつけた形の麻生首相だが、この背景について、政治アナリストの伊藤惇夫さんは、
「『もう、どうせ辞めるんだから』と、今まで貯めていた感情をはき出したのでは」
と見る。一方で、伊藤さんによると、
「ただ、基本は変わっていません。これまでの『ぶら下がり』でも、ニュース番組で紹介されるのはほんの一部分なのですが、ノーカットのVTRを見てみると、逆質問などは日常茶飯事」
と、「今回が特別な訳でもない」ということのようだ。確かに、就任から1か月後の08年10月22日の「ぶら下がり」でも、記者に「ホテルのバーに通っているのは庶民感覚に欠けるのでは」などと指摘され、
「たくさんの人と会うと言うのは、ホテルのバーっていうのは安全で安いところだという意識が僕にはあります。だけど、ちょっと聞きますけど、例えば安いとこ行ったとしますよ。周りに30人からの新聞記者がいるのよ。警察官もいる。営業妨害って言われたら何て答える?新聞記者として『私たちの権利です』って、ずーっと立って店の妨害して平気ですか?聞いてんだよ。答えろよ」
と色をなして反論したこともある。結局は「麻生首相の性格によるもの」ということになりそうだが、伊藤さんも同様の見方だ。
「麻生さんは非常に子どもじみたところがあって、言い負かされたり、返答に窮するという状態が絶対にいやなんですね。つい、言い返してしまうんです」