東国原知事や橋下知事の発言もあって「地方分権論」が盛んだ。具体的な推進にあたっては、中央(=東京)と地方の関係をどう見直していくかが問題となる。地方の若者をめぐる環境はどうなっているのか。首都圏と地方を行き来しながら高校生との対話を繰り返しているNPOカタリバ代表の今村久美さん(30歳)に聞いた。
地域の先輩が地元の高校を訪問
「高校生は先輩と話をすることで、社会の中に自分の居場所があるんだなということを確認できる」という今村久美さん
――カタリバの主な活動は、大学生や社会人のボランティアが各地域の高校に出向いて高校生と将来のことなどを語り合うことですね。
今村 カタリバは、高校の授業に地域の先輩が参加して高校生と対話する授業プログラムです。授業の時間は2時間~3時間程度。そのなかで先輩たちは、コーチング的な手法で高校生たちの気持ちを引き出したり、自分自身が高校生のときに感じていた葛藤や挫折、その後に見出した目標を語ったりすることで、生きていくための考え方の参考事例を提供します。
高校生は親でも先生でもない年上の人と話をすることで、まっさらな気持ちで、「今の日常を大切にすることが未来の自分につながって、大人になっていくんだな」ということを気づくことができます。
――訪問先はどのあたりでしょうか?
今村 立ち上げて9年目。まだ首都圏が中心ですが、数年前から青森や沖縄、四国でも少しずつ活動が広がってきました。青森の先輩が青森の高校に行くというように、その地域の大学生など先輩世代が地元の高校を訪問します。青森県の場合は県の重点事業として、教育行政の方々が主導して大学・高校に呼びかけ、現在150人ほどの大学生が参加しています。
――ほかの地域はどうですか?
今村 私の出身地である岐阜県の高山市の高校で実施を試みました。ここは大学がない地域なので、大学生がいません。東京・大阪のカタリバメンバーにも手伝ってもらいながら、地域で働く20代~60代の幅広い年齢の人に参加してもらいました。職業も多様で、トマト農園の農家の方や地元のみやげ物屋さんの人、花屋さん、信用金庫で働く人などいろいろでした。
――地方の高校生の反応は?
今村 青森県八戸の高校では、カタリバで先輩たちと話をして意欲がわいた子たちが、先生の熱心な指導もあって、観光客に対して案内を始めました。カタリバを体験して何かにチャレンジしたくなったときに、生徒たちはまず身の回りの環境に目をむけます。
それまで自分の住んでいる地域の魅力を考えたことのない生徒にも、テーマを探せば自分たちの地域環境が目に入ってくるわけです。ちなみに意図していないことでしたが、結果的にこの学校の進学実績が飛躍的に上がりました。生徒たちは多くの社会活動を通して、もっと学びたくなったのです。教育のあり方の本質を見た気がします。
地域によってどの程度の分権化がいいのか、選択できれば
――このごろは「地方分権」が強くいわれていますが?
今村 「地方分権」は賛成です。ただ、地方に権限が委譲されたときに同時に責任も委譲するんだということがどれだけ理解されているのかは、ちょっと疑問です。政党のマニフェストをみても、「責任の委譲」ということははっきり書いていない。また、各党が言っているような予算的な分権がはじまらなくても実は、今すでにできることもたくさんあります。
――カタリバの活動を通して地方行政とのやり取りで感じることは?
今村 どこの地域でもカタリバを実施する際にネックになるのが、学校という「聖域」に先生以外の人が出入りするという、これまで非常識だとされてきたことを実行しなければいけない点です。なかには青森県のように積極的に学校教育の仕組みを変えていっているところもありますが、多くの県では「大切なことだとわかっているけど、自分たちの権限ではできない」となりがちです。
行政・高校・大学のみんなが「縦割り社会」の中でそれぞれの役割に線引きをしているように見えます。生徒のために本来なにをすべきかではなく、役割範囲を優先しているのではないでしょうか。
――「縦割り行政」は、霞ヶ関の若手官僚のあいだでも最大の問題点として指摘されていることです。
今村 たしかに、すべての地域が自分たちの責任で改革をどんどん進めていけるわけではないというのも事実だと思います。自分たちで決めたいという地域もあれば、逆に中央に委ねたいという地域もあって当然でしょう。単純に、中央集権か地方分権かというのではなく、地域ごとに考えさせて、責任と権限の範囲を選択できるようにしておいて、その地域の歩くスピードにゆだねるべきではないでしょうか。
今村 久美さん プロフィール
いまむら くみ 1979年、岐阜県高山市生まれ、地元で保育園から高校生まですごした後、慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学。大学卒業後、アルバイトをしながらNPO「カタリバ」を竹野優花・現副代表とともに立ち上げる。2006年にNPO法人化。大学生が高校訪問をする「カタリ場」事業では 3500人のボランティアスタッフを抱える。