11年7月の地上放送デジタル移行 「絶望的状況」で延期しかない
(連載「テレビ崩壊」第9回/ジャーナリスト・坂本衛さんに聞く)

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「地元に根ざす」を忘れないことが重要

坂本 地方局のCMの多くは、東京からのものがそのまま流れています。キー局がスポンサーから系列局の分まで広告費を受け取って、それをキー局が地方局配分しているんです。地方局が独自に地元のCMだけを取って経営が成り立つようにするのは、経済圏が小さすぎて難しい。この仕組みは、何十年にわたって合理的だったのですが、それに甘んじて「地元密着」を捨ててしまった時が、地方局崩壊の時だと思います。
   たとえば地方局が、1日あたり制作費60~70万円の「夕方情報ワイド」をやめてしまい、東京からの番組に切り替えて二十何万円か受け取るということが、ここ数年ほど進行しています。地方局の制作率もどんどん低下している。経営的にはプラスでも、制作力や取材力にはマイナスで、非常に危ない傾向だと思います。そうならないために、いかにして自分たちの存在意義を探すかがポイントです。

――「放送と通信の融合」という動きも報じられています。地方局に、どのような影響を与えると思いますか。

坂本 「ネットを使えば、地球の裏でもテレビが見られてしまう」。これは本当ですし、総務大臣をやった竹中平蔵さんなどは、それでいいんだという考え方です。しかし、そうすると、地方局は潰れてしまいます。

――今後、地方局はどうなりますか。

坂本 可能性としては、「キー局の支局」になってしまう、というのもあり得る。ただ、これは視聴者にとってはつまらない話です。
   例えば、阪神淡路大震災の時に、東京キー局はじめ系列局が在阪局に応援を出して総力報道をやったのですが、現場入りしていたあるキー局の取材クルーは、「在阪局に素材を見せたくない」と、バイク便で東京にテープを送ったことがある。彼らは、「東京発」で、高速道路が倒壊した映像のように刺激的なものを、全国に発信したかったんですね。キー局は、そういう発想なんです。
   一方、在阪局が発信したかったのは、「△△電鉄復旧には、あと何日かかる。給水車がいつ、どこにくる」といった、被災者に密着した情報。キー局のニーズと地元局のニーズは、全く違うんです。その地元局が劣化して、地方の人びとにとってよいことは一つもない。

――他の可能性についてはいかがでしょうか。

坂本 再編の可能性もあると思います。そもそも、旧郵政省が「各県に民放を4局置く」ということを目指したのですが、これは破綻した。「もうやっていけない」という地域は、4つある民放が3つや2つになる可能性も否定できません。でも、それでもいいのではないでしょうか。
   近隣の県の局と協力する、といったやり方もあるでしょうし、CATVとの協力も選択肢でしょう。地方ではCATVの視聴率、結構いいんですよね。例えば集中豪雨の時、「何町何丁目に避難勧告が出た」といったピンポイント情報が提供でき、一帯ではどの家庭も見ていたりする。地方局主導で、そういう局を組織化し広域連合を作るといったやり方もあるでしょう。
   ただ、あくまで「地元に根ざす」を忘れないことが重要です。地デジ完全移行まで、あと数年あるはずです。地方局にとっては、「どこからお金をもらい、誰が自分のお客さんで、誰に対して放送するのか」という、自らの存在意義を徹底的に考え直すよい機会だと思います。それをやらなければ、それこそ単なる「中継鉄塔」として廃れてしまいかねません。

坂本衛さん プロフィール
さかもと・まもる ジャーナリスト。1958年、東京生まれ。早大政経学部政治学科を中退。 在学中から週刊誌、月刊誌などで取材執筆活動を開始。放送専門誌「GALAC」「放送批評」元編集長。日大芸術学部放送学科非常勤講師。取材協力した田原総一朗著「日本の政治の正体」(朝日新聞出版)が8月20日発売。ホームページ「すべてを疑え!! MAMO's Site」主宰。

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