11年7月の地上放送デジタル移行 「絶望的状況」で延期しかない
(連載「テレビ崩壊」第9回/ジャーナリスト・坂本衛さんに聞く)

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   テレビの地上放送が完全にデジタルに移行する予定の2011年7月まで、700日を切った。特に地方局は、地デジ移行に向けて、多額の設備投資を行うなど準備を進めてきた。ところが、ここに来て「2年後の完全移行は無理」との声も出始めている。今後の地デジ移行の見通しと、それにともなう地方局のあり方について、放送に詳しいジャーナリストの坂本衛さんに聞いた。

「3年程度の延期で済めば御の字だ」

地デジと地方局のあり方について語る坂本衛さん
地デジと地方局のあり方について語る坂本衛さん

――総務省は、2011年7月には、地上放送を完全にデジタルに移行したい考えです。可能なのでしょうか。

坂本 絶望的ですね。まず、受信機の問題です。電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、09年6月末時点での地デジ受信機の出荷台数は約5400万台です。このことから、「日本の世帯数は約5000万だから、結構普及しているじゃないか」と受け止める向きもありますが、これは大間違いです。この統計の内訳を見ると、薄型テレビ(液晶とプラズマ)、HDD/DVDレコーダー、セットトップボックス(STB)やPCなど。つまり、モニターが付いていないものも含んでいるんです。しかも、企業や役所など家庭以外が買った全数を含み、一家にテレビ2~3台という重複もある。

――では、実際のところ、地デジ受信機器の普及具合は、どのくらいなのでしょうか。

坂本 先ほどの「5400万台」と比較すべきは何かを考えると、アナログ時代のテレビ、VHSやベータのビデオデッキ、STBなどがこれにあたります。それらを足していくとアナログ受信機器は、2003年段階で間違いなく1億7000~8000万台ほどあった。現時点では、そのわずか3分の1がデジタルに置き換わったにすぎない。詳しい計算は省きますが、世帯普及率は40%前後でしょう。地デジが始まった03年12月から5年半経ってこの有様ですから、2年間で残り50%以上の家庭に普及させられる訳がありません。
   そう考えると、11年7月の段階で、全体の半分にのぼる「アナログしか見られない人」を「切る」ことは無理なので、延期せざるをえなくなります。

――では、何年ぐらい延期されるとお考えですか。

坂本 このペースでいけば、3年程度の延期で済めばよいところです。3年延期したとすると2014年。テレビの寿命は10年ですから、デジタル放送が始まった04年頃から10年経てば、ちょうど2014年です。1つサイクルが回る形で、ちょうどいい。2014年でアナログ停波ができたら御の字でしょうね。

――放送局が「アナログとデジタル両方発信するという状態(サイマル放送)を続けるのはコスト負担が大変だ」という議論もあります。

坂本 ちょっと前までは、NHKが「アナログを1年続けるのに100億円ほどかかる」と見られていた。ところが、09年夏になって、福地茂雄会長は「60億円かかるので負担が大きい」と述べたんです。これは噴飯ものの理屈です。NHKの受信料収入は08年度には6350億円あったのですが、アナログを続けるための60億円という額は、この1%にもなりません。このご時世、「1年で給料が2~3割減った」という人は少なくないはずです。そんな中で、「うちは1%支出が増えるので厳しい。だから全世帯でテレビを買い換え、アンテナやケーブルも新しくしてほしい」なんて理屈が通用するはずがありません。
   さらに言えば、09年の受信料収入は、前年度比140億円増の6490億円が見込まれています。これは、訴訟を起こすなどして受信料の回収が進んだのが理由なのですが、この収入増加分だけで60億円が2年分もまかなえてしまいます。NHKにとってアナログ放送の延長は、痛くもかゆくもない話です。
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