「米国中産階級の暮らし 日本よりぐんと豊かなのはなぜか」(2009年7月22日付)と題した記事について、さまざまなコメントを頂いた。厚く御礼を申し上げたい。しかし文中に少し誤解があるか、さもなくば、わたしの説明不足と思われる箇所があったので、ここで補足させていただきたい。
米国の自然条件 じつは過酷
まずは「アメリカは広いので住宅が安くて当然」という意見について。もしそれが正しいのならば、ニューヨークのアパートの値段があんなに高くなるはずがない。逆に東京周辺の横浜から千葉にかけての湾岸には広大なスペースがあるので、高層マンションを数千棟くらいは建てられるのではないか。さらに背後に控える関東平野(1万7000平方キロメートル)は1億人だって楽に住めるはずの広さだ。住宅価格は土地の広さで決まるのではないし、ましてや国土の広さで決まるのではない。
「日本は自然条件が過酷だから、住宅の建設費用が高くても仕方がない」という意見があった。しかし、世界で自然条件が最も過酷な国のひとつが米国だ。米国の四大災害といえば洪水、地震、ハリケーン(日本では台風)、それに竜巻。洪水については日本とは河川の規模が違うのでケタ違いの被害がある。
1993年の大洪水では約8万平方キロメートル(日本の国土の4分の1に匹敵する)の面積が水没した。ハリケーンについては2005年のカトリーナの惨劇はまだ記憶に新しいところだ。また米国は世界一多く竜巻が発生する国であり、その被害は日本人の想像を超える。そして米西海岸は世界的にも地震が多い地域だ。環太平洋火山帯というのがあり、日本やインドネシアなどと米西海岸が太平洋の両岸でそれを形成しているというのは学校で習ったはず。さらに言えば、米国には極寒のアラスカから灼熱の砂漠まであり、「自然災害のデパート」の様相を呈している。
日本では住宅ローン完済する前に家が傾く?
そして、このアメリカの過酷な条件を生き抜いているのが「ツーバイフォー」(2×4)による住宅だ。ツーバイフォーはアメリカの木造住宅の大半で使われている工法である。これは何と言っても地震に非常に強い。阪神淡路大震災のときもツーバイフォーで建てられた家はほとんど倒壊しなかった。構造を面により支える工法なので、日本の伝統的な軸組工法(柱で支える方式)よりも振動に強いのだ。
さらにツーバイフォーは風にも火にも強いし、耐久性も高い。そのためアメリカでは100年経った木造の家がざらにある。ツーバイフォーは長い年月をかけて完成の域に達した工法なのだから当然といえるだろう。
「アメリカ人が借金をしすぎたために世界経済が傾いた」という意見。それは、そのとおり。でも、多くの個人にとって人生で最大の借金である住宅ローンについてみれば、明らかに米国の状況のほうがましだ。前述のように、米国の家は阪神淡路大地震くらいの揺れではまず大丈夫だし、本欄で繰り返し書いてきたように、米国の住宅ローンはいわゆるノンリコース・ローンなので、借金が残っていても家さえ返せば返済したことになる。
一方、日本では住宅ローンが完済される前に傾いてしまうのではないか、と思うような安普請の家がそこら中に建っている。日本で家を建てる多くの人が、住宅の資産価値(=カネ)どころか耐震性(=命)にも無頓着であるということなのだろうか? そんなことは絶対ない、と思いたいのだが・・・
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。