宇宙ステーションや月、火星の基地で将来、人類が暮らすことが想定されていて、さまざまな研究が進んでいる。この「ミニ地球」で人類が発展していくには、子孫を残すことが欠かせないが、ほ乳類の生殖研究は実験が難しく、あまり行われていない。理化学研究所と広島大学のチームは共同で、スペースシャトル内と同じ重力環境でのマウスの受精から初期段階の経過を研究した。
胚盤胞まで育ったのは、地上のおよそ半分の30%
宇宙空間における生殖研究は、これまで魚類や両生類で行われていて、無重力でも正常に子孫を残せることがわかっている。
一方、ほ乳類の場合はほとんど研究が行われていない。環境の変化に弱く、宇宙に連れて行っても交尾をしない可能性が高いからだ。かつてラットを使って宇宙での繁殖を試みたが、うまくいかなかった。また、生殖細胞を打ち上げるという方法もあるが、ほ乳類の生殖細胞はとても小さく、培養可能期間が4日間と短いなどの理由から、宇宙空間に運ぶことが難しいとされている。
理化学研究所の若山照彦氏と広島大学の弓削類教授のチームは、スペースシャトル内と同じ重力環境で、マウスの体外受精と初期胚(胎児の原型)の培養を行った。
体外受精を試みてから6時間後に装置から卵子を回収し、微小重力の影響を調べた。すると84%の卵子が正常な受精をしていて、地上と同じ重力環境の81%と比べても大差はなかった。
ところが、受精卵を培養する過程で違いが生じた。受精卵は卵割(細胞分裂)して成長する。培養から24時間後、細胞が2つにわかれる確率は同程度だったが、96時間後に胚盤胞(はいばんほう)まで育ったのは30%で、地上のおよそ半分の確率だった。
また、メスのマウスの子宮に胚を移植したところ、24時間で回収した胚は出産率が35%(地上63%)、96時間で回収した胚は16%(38%)だった。
受精卵が成長する過程に重力が影響していることが分かったわけで、「微少重力の宇宙空間でほ乳類が正常に繁殖するのは困難だ」と結論づけている。