2009年8月30日の衆院選投開票を控え、日銀が民主党政権の誕生にヤキモキしている。もともと民主党とのパイプが細いのに加え、金融政策に対する民主党のスタンスが今ひとつはっきりせず、「民主党の出方が読めない」(日銀幹部)ためだ。金融危機対応の政策を平時に戻す「出口戦略」や審議委員の補充・交代など多くの懸案を抱える日銀にとって、悩みの種が増えた。
民主党政権が日銀にも国債買い取りの増額を要請?
「厳しい経済・財政状況を乗り切る過程で金融当局と財政当局が何らかのアコード(政策協定)を見出すことはありえるのではないか。日銀に財政ファイナンスに協力していただく余地はあるかもしれない」。
民主党の大塚耕平政調副会長が8月上旬に開いたマニフェスト説明会でこう述べたと伝わると、日銀には戸惑いが広がった。民主党政権が積極的な財政出動を推し進め、財源として国債を増発し、日銀にも国債買い取りの増額を要請する。そんなシナリオがちらついたためだ。
日銀は危機対応策の一環として既に長期国債買い取りの増額(現在は月1.8兆円)に乗り出しており、民主党が「政策協定」を盾に迫ってきたとしても、これ以上の買い取りは「財政規律を失わせ、日銀の信認も揺るがしかねない」と反対する構え。今のところは「大塚発言は市場も含めて個人的見解と受け止めている」と静観してはいるが、大塚氏は日銀出身で事情を知り尽くしているはずだけに「真意を測りかねる」と困惑顔だ。
「政権を取ると豹変するかもしれない」と警戒
民主党は「財政と金融政策の分離」を強く主張し、2008年春の日銀正副総裁人事では、政府が提案した財務省OBの総裁、副総裁起用をことごとくはねつける一方、日銀出身の白川方明総裁の就任は容認した。自民党政権下でたびたび政府・与党の「圧力」にさらされてきた日銀にとって、「中央銀行の独立」に理解を示してきた民主党は本来、「援軍」のはずだ。だが、ここにきて、「政権を取ると豹変するかもしれない」との警戒感がくすぶる。日銀は社債やCP(コマーシャルペーパー)の買い取りの打ち切りの是非を年末までに判断する「出口戦略」の検討に入っているが、「景気に配慮したい民主党政権がどう口をはさんでくるか分からない」(市場関係者)との憶測も流れる。
さらに、金融政策の決定に関与する審議委員(定員6人)も1人が空席、もう1人が年末に任期切れとなるため、この2人をどう埋めるかも民主党政権の意向に左右される。
空席の1人は2008年、政府が池尾和人慶応大教授を提案し、民主党はいったん賛成の意向を示した。だが、国民新党が「池尾教授は郵政民営化賛成論者」と反対したため、民主党も国民新党の意向を汲んで反対に回り、結局、参院で否決され、不在が続いている。年末に任期が切れる審議委員はエコノミスト出身のため、日銀は後任もエコノミストを想定しているが、「郵政民営化に反対していたエコノミストはほとんどいないはず」と人選に苦慮するとの見通しが早くも出ている。