「縦割り」と「横並び」がガン キャリアみずから明かす「官僚改革」
インタビュー「若者を棄てない政治」第9回/新しい霞ヶ関を創る若手の会代表・朝比奈一郎さん

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   日本の行政をリードしてきた霞ヶ関が厳しい批判にさらされている。衆院選では「官僚主導政治の打破」を掲げる政党が多く、その声に賛同する国民も少なくない。だが、霞ヶ関の内部で地道に改革を目指す官僚たちもいる。そのうちの一つ、「新しい霞ヶ関を創る若手の会」の代表をつとめる朝比奈一郎さんに「霞ヶ関のどこが問題なのか」を聞いた。

「国民全体のために」という視点が欠けている

「これまでも『さらば、霞ヶ関』と言って批判する人はいましたけど、我々は霞ヶ関の内部で建設的な改革案を出していきたいんですよ」という朝比奈一郎さん
「これまでも『さらば、霞ヶ関』と言って批判する人はいましたけど、我々は霞ヶ関の内部で建設的な改革案を出していきたいんですよ」という朝比奈一郎さん

――今回の衆院選では「脱官僚」が一つの大きなテーマになっていますが、霞ヶ関の人たちはどう感じているのでしょうか。

朝比奈 まず、今回の選挙という短期的な視点だけでいうと、少なくとも我々のような現場レベルでは淡々としていますね。報道では、政権交代に備えて特別チームを作ったとかいろいろ流れていますけど、現場レベルでは別に考えても仕方がないから、淡々と目の前の仕事をやっていこうという雰囲気です。

――では、長年にわたる「官僚批判」についてはどうですか?

朝比奈 私は1997年に霞ヶ関に入りましたが、すでに薬害エイズの問題などがあって、霞ヶ関はいろいろと批判を受けていました。そのころやそれ以降に入ってきた人たちは、長期的な傾向として霞ヶ関の地盤沈下は免れないなと認識していたと思います。就職するときの面接で何をしたいかと聞かれたときに、「役所の悪い部分をなくしたい」と言って入ってきた世代です。

――霞ヶ関に対する批判はいろいろとありますが、朝比奈さんたちが問題だと考えていることはなんですか?

朝比奈 大きな問題が二つあると考えています。一つは縦割り行政ですね。「国民全体のために」という視点がなかなか持ちにくい。憲法や国家公務員法には「国民全体の奉仕者である」と明記されているんですが、日々仕事でつきあう人は業界の人ばかりだったりするので、「この人たちのために」となりがちです。

   ある時代までは、その業界の人たちのためにやるということが、結果的に全体最適を生むいう考え方もあったと思います。でも、今みたいに右肩上がりではない時代に本当にそれでいいのかということです。

「アメリカもやってます、フランスもやってます」

――もう一つの問題とはなんですか?

朝比奈 前例・横並び主義です。予算要求が典型なんですけど、新しい政策をやろうとすると、どうしても「前例はどう?ほかの国は?」みたいな話から始まっちゃうんですよね。これは冗談みたいな本当の話ですけど、予算要求のやり方が各国で違うという話があります。

   アメリカでは「これはアメリカが最先端の研究で、今やれば一番になれる」というと予算がつきやすく、フランスだと「この案は非常にユニークで、フランス独自のものです」というと予算がとりやすい。日本の場合は「アメリカもやってます、フランスもやってます」というと一番通りがいい(笑)。

――入るときには「公のためにがんばろう」という高い意識をもった人も多かったのではないかと思うのですが、なぜ中に入ると縦割り行政とか前例主義になってしまうのでしょう?

朝比奈 なってしまうというか、現実がそのように進んでいるんですよね。縦割りでいえば、司令塔となる部署があって、各省庁の言いたいことをバシっと裁いてくれるということであればいいんですけど、結局、そういう司令塔がいないんです。

――そういう司令塔的な判断は、首相とか大臣とかがするんじゃないんですか。

朝比奈 私は小泉内閣のときに特殊法人改革の担当をしていましたが、当時あった163の特殊法人のどれが必要で、どれが不要かということについて、忙しい総理がすべて判断するというのは現実的には無理です。結局、道路公団など一部の法人以外は事務局で決めることになります。

   でも事務局でといっても、みんな各省から出向で来ているから、「自分のところの法人はいりません」とかなかなか言えないわけですよ。そうなると、結局バランスを取って、一律に予算を減らすとか、どの省も1個ずつ減らしましょうとなってしまう。

――横並び主義の典型のような話ですね。

朝比奈 結局、仕組みが悪いということです。官僚に対する印象として、「役人一人ひとりとしゃべると、結構まともなことを言うし、面白い人も多い」という話はときどき耳にする。でもそれぞれの立場になると、とたんにディフェンシブになってしまう。

   そういう現象は霞ヶ関だけでなく、ほかの大企業でもあると思うんです。やっぱり仕組みがよくならなければ、いくら熱い思いをもった優秀な人が入ってきても結局うまくいかない、というのが我々の思いですね。

採用方法や年功序列をどう変えていくのかが大事

――2005年に出版した『霞ヶ関構造改革』では、そのような問題への対策として、(1)司令塔となる組織(総合戦略本部)の設置(2)キャリア制度廃止など人事制度の抜本的改革(3)日常業務の効率化・透明化の推進を提言していますね。

朝比奈 本を出したときに、いろいろな政治家の方とも話をしたのですが、「この改革案は非常に面白いんだけど、すぐにやれと言われても抜本的すぎて、ちょっと難しいなあ」という反応でした。でも今の霞ヶ関の状態からすると、個別の制度をちょっといじるだけでは良くならない。

   司令塔を作るといった組織論から、人事制度や日々の業務の進め方まで、パッケージで改革していかないと変わらない。一見大胆な、大風呂敷の話にも見えますけど、こういう混乱の時期こそ全体的な手を打っていかないといけないと思います。

――本を出してから4年ほどたちますが、改革は進んでいるのでしょうか?

朝比奈 あいかわらず官僚批判は厳しいですが、着実に進んでいる部分もあるんですね。特に人事制度については、国家公務員制度改革基本法という法律ができて、関連法案を整備するための事務局も作られました。

   ただ、部分的な改革で終わらせないためには、改革の全体的なパッケージやプロセスを考える、霞ヶ関改革推進本部やその事務局のような組織が、地味な話ですが重要です。我々が9月に出す新著では、そうした本部や事務局のあり方について詳しい説明をしています。

――国民的な関心という点からすると、人事制度改革のなかの「天下り禁止」に焦点があたっていますが?

朝比奈 我々がミッションと考えているのは、さきほど話した「縦割り行政」や「前例主義」の打破ですから、正直にいうと、天下り禁止というのはど真ん中の改革ではありません。人事制度の中でも、採用方法や年功序列をどう変えていくかというほうが大事だと考えているんです。

   それでも、任用・採用の仕組みを変えていくなかで、天下りというのはどうしても避けて通れない話なので、我々も原則禁止ということを言っています。予算や権限を背景にした押し付け的な天下りは禁止すべきだと。

――押し付け的な天下りではなく、その官僚が優秀で「ぜひうちの会社にきてほしい」という場合は認めるべきだと?

朝比奈 そうですね。その人がある専門分野で本当に優秀なのだとしたら、予算や権限を背景にしなくてもいろんなところで活躍できるだろうし、日本全体にとっても良いことですからね。ただ、問題は、実際にはそのような優秀な専門家が霞ヶ関に少ないことです。

   本来官僚というのは、その分野の政策立案の専門家であるべきなんですが、1年や2年でひょいひょいといろんな部署に回される現状では、なかなか専門家は育たない。専門家を作る人事システムに変えていくことが、天下り問題の解決にもつながるのだと考えています。

※インタビュー第10回は、ピクシブ社長の片桐孝憲さんです。


朝比奈 一郎さん プロフィール
あさひな いちろう 1973年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。ハーバード大学行政大学院修了。1997年に通商産業省(現経済産業省)に入省し、経済協力部、特許庁、内閣官房特殊法人等改革推進室などを経て、現在は経産省貿易経済協力局に勤務。2003年9月に同期入省の官僚21人で「新しい霞ヶ関を創る若手の会」を結成し、05年12月には具体的な改革案をまとめた『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』(東洋経済新報社)を出版。09年9月には続編にあたる『霞ヶ関維新』(英治出版)を出版。

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