採用方法や年功序列をどう変えていくのかが大事
――2005年に出版した『霞ヶ関構造改革』では、そのような問題への対策として、(1)司令塔となる組織(総合戦略本部)の設置(2)キャリア制度廃止など人事制度の抜本的改革(3)日常業務の効率化・透明化の推進を提言していますね。
朝比奈 本を出したときに、いろいろな政治家の方とも話をしたのですが、「この改革案は非常に面白いんだけど、すぐにやれと言われても抜本的すぎて、ちょっと難しいなあ」という反応でした。でも今の霞ヶ関の状態からすると、個別の制度をちょっといじるだけでは良くならない。
司令塔を作るといった組織論から、人事制度や日々の業務の進め方まで、パッケージで改革していかないと変わらない。一見大胆な、大風呂敷の話にも見えますけど、こういう混乱の時期こそ全体的な手を打っていかないといけないと思います。
――本を出してから4年ほどたちますが、改革は進んでいるのでしょうか?
朝比奈 あいかわらず官僚批判は厳しいですが、着実に進んでいる部分もあるんですね。特に人事制度については、国家公務員制度改革基本法という法律ができて、関連法案を整備するための事務局も作られました。
ただ、部分的な改革で終わらせないためには、改革の全体的なパッケージやプロセスを考える、霞ヶ関改革推進本部やその事務局のような組織が、地味な話ですが重要です。我々が9月に出す新著では、そうした本部や事務局のあり方について詳しい説明をしています。
――国民的な関心という点からすると、人事制度改革のなかの「天下り禁止」に焦点があたっていますが?
朝比奈 我々がミッションと考えているのは、さきほど話した「縦割り行政」や「前例主義」の打破ですから、正直にいうと、天下り禁止というのはど真ん中の改革ではありません。人事制度の中でも、採用方法や年功序列をどう変えていくかというほうが大事だと考えているんです。
それでも、任用・採用の仕組みを変えていくなかで、天下りというのはどうしても避けて通れない話なので、我々も原則禁止ということを言っています。予算や権限を背景にした押し付け的な天下りは禁止すべきだと。
――押し付け的な天下りではなく、その官僚が優秀で「ぜひうちの会社にきてほしい」という場合は認めるべきだと?
朝比奈 そうですね。その人がある専門分野で本当に優秀なのだとしたら、予算や権限を背景にしなくてもいろんなところで活躍できるだろうし、日本全体にとっても良いことですからね。ただ、問題は、実際にはそのような優秀な専門家が霞ヶ関に少ないことです。
本来官僚というのは、その分野の政策立案の専門家であるべきなんですが、1年や2年でひょいひょいといろんな部署に回される現状では、なかなか専門家は育たない。専門家を作る人事システムに変えていくことが、天下り問題の解決にもつながるのだと考えています。
※インタビュー第10回は、ピクシブ社長の片桐孝憲さんです。
朝比奈 一郎さん プロフィール
あさひな いちろう 1973年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。ハーバード大学行政大学院修了。1997年に通商産業省(現経済産業省)に入省し、経済協力部、特許庁、内閣官房特殊法人等改革推進室などを経て、現在は経産省貿易経済協力局に勤務。2003年9月に同期入省の官僚21人で「新しい霞ヶ関を創る若手の会」を結成し、05年12月には具体的な改革案をまとめた『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』(東洋経済新報社)を出版。09年9月には続編にあたる『霞ヶ関維新』(英治出版)を出版。