広告落ち込みや「テレビがネットに飲み込まれる論」などについて、テレビ局側はどう考えているのか。地上波民放テレビ全127局(ラジオ局など含み計201社)が加盟する日本民間放送連盟(民放連)に見解をきいた。
現在のビジネスモデルについては、「確固たる自信」
東京千代田区にある民放連が入るビル
民放連の会長定例会見の内容などを踏まえ、民放連事務局の青木隆典・会長室長らが答えた。
J-CASTニュースはまず、広告の落ち込みの現状についてきいた。民放各社の2008年度決算が出そろい、加盟全社合計で売上高は前年度比4.9%減、経常利益は45.2%の大幅減だった。当期純利益でみると、加盟201社の半数以上の108社が赤字となった。また、09年1月の段階で民放連は、09年度の地上波テレビ営業収入について、3年連続の減収となる6.2%減(対前年度比)と予測している。
――民放連は、08年度の決算状況については、厳しいことは間違いないが、ある程度想定されたことだと受け止めている。むしろ、08年度後半から突入した「100年に1度」の不況の中、売上高が5%減程度によくとどまっていると考えている。全体の経常利益が大きく下がった要因も想定されていたもので、地デジの設備投資に伴う、減価償却がピークにきていることが影響している。
もちろん、厳しさは感じている。世界的不況から大手スポンサーが広告を控えるようになり、特に東京キー局への影響が大きかった。これまでは、ある社が広告を控えれば、同業他社が広告を増やすといった傾向があったが、今回は全体的に下がった。
09年度についてはどうか、という問いに対しては、次のように回答した。
――前半は厳しかったが、ここに来て底入れ感も出てきた。後半の予測はまだ難しいが、09年当初に公表した09年度予測(営業収入6.2%減)内に収まることを望んでいる。
次は、広告減の理由についてたずねた。不況の影響だけなのだろうか、それともインターネットに食われた部分もあるのだろうか。回答は明快だった。
――全く影響がないとは言い切れないが、基本的に不況の影響であり、「ネットなど他媒体の影響はなお受けていない」。無料のコンテンツを提供し、広告費を集めるというビジネスモデルについては、確固たる自信を持っている。09年6月の「民放経営四季報」(民放連研究所)では、マスメディア広告費の中期展望を分析した記事が掲載されている。ネットは、ラジオや新聞、雑誌の広告費を削る形で急速な伸びを示してきたが、「テレビだけはインターネット広告費の水準とは関係なく出稿額が決められている可能性が高い」と指摘している。
それでは、新書タイトルなどでみかける「ネットがテレビを飲み込む」論についてはどう考えているのか。
――民放連では、従前から、テレビとネットは棲み分け可能で、互いにうまく利用し合える関係だと考えている。どちらかがどちらかを飲み込むのではない、ということだ。テレビ各局は、コンテンツ力を生かし、番組のオンデマンド配信に力を入れるなど実際にネットの有効利用を始めている。利用者の特徴も、テレビはリラックスして楽しむもの、ネットは積極的に情報を取りにいくものと分かれており、それぞれ必要な人がいる、ということだ。
電波利用料の支払い「少なすぎることはない」
上記の答えにあった「棲み分け」は、テレビの電波利用に関して「放送」という枠組みの中で国から特別に守られた上で成り立っているとの指摘もある。この点はどうか。電波を国から割り当てられて収益を上げているのに、テレビ業界全体の電波利用料の支払(キー局で1局3億2000万円弱)が、「営業収益の1000分の1という現状は少なすぎる」とブログなどで指摘した与党議員もいる。
――民放連では、電波利用料の支払い額が少なすぎるとは考えていない。電波利用料は、中継局の出力数に応じて決められており、営業収益とリンクさせる考え方は馴染まない。また、テレビ放送は公共的な側面を担っており、収益とは関係なく緊急災害放送を行うことなども考慮すべき点だ。また、経済的に非効率ではあっても、利用者がすくない地域にも電波を広く届けるために中継局を増やしてきた。これも公共的な役割があるからで、経済合理性だけを徹底すれば、切り捨てられる地域が出てくることになってしまう。
次は、地上デジタル放送化への投資に関してきいた。巨額の投資に耐えきれずに倒産するローカル局が出るのではとの懸念も一部にある。ローカル局の倒産は、現実味がある話として受け止められているのだろうか。認められた持ち株会社を軸にした再編の可能性も指摘されている。
――実は、テレビ業界内でローカル局の経営危機が心配されていた時期は、デジタル化の設備投資を行う前の段階にもあった。それはローカル社の収益規模に対し、借入額が大きすぎることから、金融機関の貸し渋りがあるのではないかと思われたからだ。しかし、幸いにも実際にはそのような事態は起こらなかった。06年12月には全都道府県で地デジの受信が可能になったが、そのころには倒産懸念は業界内では語られなくなっていた。今また、08年後半以降の不況の影響で厳しい局面を迎えているのは事実だが、広告抑制に底打ち感も出てきたこともあり、乗り越えられるだろう。持ち株会社については、経営が厳しい局の救済ではなく、もっと積極的な戦略のなかで検討している局もあるかもしれないが、現実的な動きとしては、まだ聞こえてこない。
最後に視聴者からの信頼の問題を質問した。09年7月30日には、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が、日本テレビの「真相報道バンキシャ!」の岐阜県庁裏金誤報問題について、日テレに検証番組をつくるよう、初の「勧告」をした。業界全体として対応策は考えているのか。
――同委の決定の翌日、民放連は緊急対策委員会を開いた。今回の事案は日本テレビだけの問題ではなく、民放業界全体として問題・危機意識を共有すべきだとして、対策委の協議内容を各社に送った。今回の問題は、テレビの調査報道の信頼性を大きく損なったと受け止めている。報道の自由を守る観点から、国からの介入を許さないためにも、BPO検証委の活動は重要で、その見解や勧告はとても重いものだ。民放連としても、シンポジウムや勉強会を開いたり、各社への周知徹底を図ったりしている。
<メモ:日本民間放送連盟>
略称、民放連。1951年に任意団体として設立、52年に社団法人化。現在、地上波テレビ民放の全127局を含む201社が加盟している。会長は、広瀬道貞・テレビ朝日顧問。「民放共通の問題を処理」し、「民放の公共的使命達成」を目的としている。さまざまな専門委員会を設置し、各種調査研究も行っている。