衆院総選挙後の政権交代が有力視される中、民主党の政策に注目が集まっている。電波を使いたい事業者が電波の帯域を競り落とす「周波数オークション」だ。日本では総務省が導入に反対しているが、地デジ完全移行後の「アナログ放送の跡地」をオークションで売却すれば数兆円単位の収入が見込めるとの見方もあり、関係業界に波紋を広げている。
総務省はオークションに反対
注目が集まっているのは、民主党が2009年7月23日に発表した政策集「インデックス(INDEX)2009」。「内閣」「行政改革」「分権改革」など21の分野について同党の基本政策を示したもので、総選挙で注目を集めるマニフェスト(政権公約)は、これをベースに作成されている。
21項目のうちのひとつが「郵政事業・情報通信・放送」。NHK改革や、通信放送行政を総務省から切り離して「通信・放送委員会」(日本版FCC)を設置することなどを提唱。その中の1項目に「電波の有効利用」を掲げており、具体的な政策としては(1)電波利用料に電波の経済的価値を反映させることによる電波の効率利用促進(2)適当と認められる範囲内でオークション制度を導入することも含めた周波数割当制度の抜本的見直し、などが挙がっている。08年の政策集にも、この方針は盛り込まれていたが、政権交代が視野に入る中、政策の実現が現実味を帯びてきた形だ。
電波オークションは、1994年に米国で始まり、94年7月から08年11月にかけて85回が実施されている。落札総額は、780億ドル(7兆3000億円)に達している。米国以外では、00年から、英・独・スイスのEU諸国が導入。現在では、OECD(経済協力開発機構)加盟30か国のうち23か国が導入している。
日本では、事業者から提出された書類やヒヤリングの結果を参考にして総務省などが帯域を割り当てる「比較審査」と呼ばれる方式を採用。93年からは「電波利用料」を導入し、政府は放送局や携帯電話会社などから年間600億円以上を徴収している。「比較審査」をめぐっては、透明性について疑問があがることもあるが、総務省は「審議会への諮問やパブリックコメントの募集といったプロセスを経ているので大丈夫」との立場だ。
一方、オークションについては
「事業者がオークションに投資した金額を回収できなくなり、事業継続ができなくなる」
などとして、一貫して否定的な立場だ。旧郵政省や総務省の懇談会・諮問会議などで導入が検討されたこともあったが、慎重論が大勢だ。
「アナログ波跡地」オークション売却で、1.7兆円の収入
大阪大・大阪学院大の鬼木甫(おにき・はじめ)名誉教授(情報経済論)は、その背景に、「既得権益」の存在を指摘する。
「オークションが導入されて困るのは、今電波を使っている人。具体的には、電話会社や放送局などの既存ユーザーです。電波利用料を支払ってはいますが、本来の電波の市場価値と比べると30分の1~50分の1程度。ほとんどタダみたいなものです。」
しかし、日本では地上波の完全デジタル化を2011年に控え、これまでのアナログ波の「跡地」利用に注目が集まっている。09年6月に地デジに移行した米国では、アナログ波の「跡地」をオークションにかけ、携帯電話会社などが約200億ドル(2兆円)で落札している。鬼木氏が米国のケースをもとに試算したところによると、日本の「アナログ波跡地」を、すべて商用ベースでオークションで売却した場合、1.7兆円の収入が見込めるという。国内で電波オークションが実現した際には、いわば「電波埋蔵金」が出現する形で、「財源が不明確」との批判を浴びている民主党にとって魅力的なのは間違いない。
鬼木氏は、
「オークション導入がプラスになるのは、まず一般国民。これに新規参入を望む潜在的ユーザーです。これまで、通信事業者は事実上タダで電波を使ってきましたので、平気で無駄遣いをしてきました。ところが、オークションを導入すれば、一生懸命帯域を節約しようと努力するし、そのための技術も発展します。新規参入も増えますし、業界の活性化が進みます」
と、今回の動きを歓迎している。民主党政権が誕生すれば、通信業界にも大きな変化が起こるのは間違いなさそうだ。