今回は「選挙のダイナミズム」実感 投票行かないともったいない
インタビュー「若者を棄てない政治」第5回/ivote代表・原田謙介さん

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   日本の若者は選挙に行かないことで有名だ。前回参院選の20代の投票率は36%で、60代の76%の半分以下にすぎない。投票率の低さゆえに、若者の声は政治の現場に届きにくくなっている。これではまずい! そう考えて、20代の投票率アップをめざして活動するivote(アイ・ヴォート)、すなわち「私は投票する」という名前の学生団体がある。その代表をつとめる原田謙介さん(23歳)に「若者が選挙に行く意味」を聞いた。

「投票の約束」をしてもらうプロジェクト

「政治家のなかには、ちゃんと仕事をしているすごい人もいるんですよね」という原田謙介さん
「政治家のなかには、ちゃんと仕事をしているすごい人もいるんですよね」という原田謙介さん

――ivoteでは、若者に投票をよびかける「メールプロジェクト」を進めているそうですね。

原田 投票に行こうと思ったときに、その意志を僕たちのホームページ上で登録してもらい、実際に投票に行ってもらおうというプロジェクトです。登録した人には、投票日の朝に「あなたは投票に行くと約束しましたね。ぜひ行ってください」というメールが届いて、投票をうながします。過去の自分から未来の自分に向けて、投票することを約束してもらうというわけです。

――「未来の自分に約束する」ということは、登録時になにか文章を入れておくのですか?

原田 本当はフリー記述で「自分への約束」を入れてもらって、それが自分のメールに返ってくるようにしたかったんですが、他人への投票依頼に悪用されて公職選挙法に違反する可能性があるということで、あきらめました。結局、「未来のために」とか「好きな人のために」とか当たり障りのない選択肢を選んでもらう方式にしました。

――このメールプロジェクトはどういう発想から生まれたんですか?

原田 ivoteの活動を通していろんな学生と話をしていたら、選挙に行っていない人でも、授業で政治の話を聞いたり、なにか政治的な事件があったりしたときには、「次の選挙は投票に行ってみようかな」と思うことがある、ということがわかったんです。でも、そういう気持ちは投票日まで続かない、という人が多かった。
   それなら、その「投票に行こう」という気持ちを登録してもらって、選挙の前にもう1回呼び覚ましてあげれば、投票に行く人が少しでも増えるんじゃないか。そう思って、メールプロジェクトを始めました。インターネットを使う仕組みにしたのは、お金もかからないし、若い人には良い方法かなと考えたからです。

政治家に若い世代のことも考えてもらいたい

――メール配信のシステムは自分たちで作ったんですか?

原田 僕は技術的なことは全然わからないので、プログラミングができる友達とかを捜したんですが、なかなかうまくいかなくて……。プロジェクトのアイデアは去年(08年)の9月からあったんですが、ようやく作ってくれる人が見つかってオープンできたのは、今年の2月。衆議院の解散に間に合ってよかったです。

――ivoteという団体は原田さんが友達と一緒に始めたんですよね。

原田 僕は大学に入ったときに政治に対する漠然とした興味があって、「政治の世界をこの目で見てみたい」と思っていたんですよね。そこで地元の岡山選出の議員さんにお願いして、事務所の手伝いとかをするようになりました。2年間ぐらい経験してみて、政治が僕らの生活のいろんなところに関わっているというのが分かったんです。
でも、まわりの友達としゃべると政治に全然興味がなくて、投票にもいかない。こんなのでいいのかなと思っていたら、ちょうどその頃、アメリカの大統領選挙が盛り上がり始めて、若者がたくさんオバマを応援していると報道されていた。アメリカはすごいな、うらやましいなと思ったのが、活動を始めたきっかけですね。

――アメリカの大統領選の盛り上がりはすごいですからね。

原田 もう一つのきっかけは、ちょうどそのころ話題になっていた後期高齢者医療問題です。マスコミの報道では、ひたすら高齢者の負担が増えるという側面にばかり焦点が当てられていて、僕らの世代やその下の世代の視点からみた議論はほとんどなかった印象があります。それが、ちょっと悔しかったんですよね。
結局、そうなってしまうのは、僕たち若い世代が投票に行かないからです。政治家が投票に行く人のほうを向くのは自然なこと。政治家の人たちに目を向けてもらうためには、僕らの世代がもっと政治に興味をもって、意見を発信しなきゃいけない。難しい話は抜きにして、とりあえず投票に行こう。そう考えて、議員事務所の手伝いをしているときに知り合った学生と一緒に、「ivote(=私は投票する)」を立ち上げました。

目標はメール登録10万人だが

――メールプロジェクトの目標は?

原田 20代の投票率を1%アップさせることを目標にしています。具体的には、前回(2007年)の参議院選挙の投票率が36%だったので、それから1%上げるのが目標ですね。そのために、ivoteに10万人メール登録してもらうことを目指しています。

――いまのところの登録者はどのくらいですか?

原田 1000人くらいですね……。実際にやってみると、なかなかむずかしい。NHKの「クローズアップ現代」やいろんな新聞で取り上げてもらったんですが、そういうのを見る人って、もともと投票に行こうと思っているような人じゃないですか。だから、わざわざ登録したりしないみたいなんですよね。

――登録してもらうために、街頭でビラを配ったりもしていますね。

原田 8月2日には渋谷のハチ公前でビラを配りました。「20代の夏まつりのごあんない」というポップなデザインのビラで、なんだろうと思って受け取ると「選挙に行こう」と書いてある。雨の中で浴衣を着て配っていたんですが、面白かった。投票日の1週間前の22日と23日には、渋谷や横浜など全国10箇所で、ほかの学生団体と協力してまたビラを配る予定です。

――今回の衆院選は、若い人にとってどんな意味が?

原田 世間で言われているように、初めて本格的な政権交代の可能性があるというのが大きいと思います。選挙の結果しだいで、政治や社会が変わってくる。もし民主党に入れて民主党が勝ったら、自分の1票で政権を変えたと実感できるだろうし、逆に自民に投票して自民党が勝ったら、自分の1票があったから助かったんだと思うことができる。そういう「選挙のダイナミズム」を実感できる選挙。だから、投票に行かないともったいないと思いますね。

※インタビュー第6回は、政策過程研究機構(PPI)理事・間中健介さんです。


原田 謙介さん プロフィール
はらだ けんすけ 1986年、岡山県生まれ。東京大学法学部在籍。大学1、2年のときに地元選出の国会議員の事務所でインターンシップを経験。2008年4月、インターンシップなどで知り合った学生たちと若者の投票率向上を目指す団体「ivote」を結成。国会議員と学生が居酒屋で懇談するイベント「居酒屋ivote」や投票の意志をネットで登録する「ivoteメールプロジェクト」などを実施している。

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