警視庁が摘発したステロイド入りの化粧品は、販売元の社員がサクラになってアトピー患者の情報交換サイトにウソを書き込んでいた。その口コミの手口が、被害を拡大したらしい。
情報交換サイトに、患者らを装いだまし文句
「このクリームでアトピーが完治しました!」
「かゆみも赤みも引いたんですよ」
「友だちが使って治った。うちの子どもも治りました」
化粧品を販売した東京・新宿区の会社「ラバンナ」の社員らは、警視庁の調べによると、ネット上の情報交換サイトに、患者らを装って、こんなだまし文句を大量に書き込んでいた。
社員らを指示したとされるのが、ラバンナ実質経営者の南原貴裕容疑者(29)ら同社幹部5人だ。調べによると、南原容疑者らは08年5月20日から同7月9日にかけて、ステロイドを含む化粧クリーム「NOATO(ノーアト)クリーム」をアトピー患者の男女8人に計10個、6万3000円分を販売した疑い。ステロイドは化粧品には使えない医薬品成分で、5人は09年8月19日、薬事法違反(無許可販売)の疑いで逮捕されている。南原容疑者らは、「ステロイドが含まれることは知らなかった」と容疑を否認しているという。
患者らの関心を引いたとみられるのが、巧みな宣伝文句だ。同社ホームページ上で、事実を偽って、「ステロイドは一切含まれません」「天然成分100%」「赤ちゃんにも使えます」などとうたった。そして、社員らが時には乳児の母親などになりすましながら、前出のようなネット上の工作活動を繰り返したわけだ。
口コミが広がった結果、新聞各紙によると、このクリームは実際には、08年2~7月に、通販サイトや仕入れ業者を通じて、約2万個もが販売されたとみられている。
「ステロイドを使っていないという題目に弱い」
とはいえ、化粧クリームには、ステロイドが含まれていたため、全国の消費生活センターには、あまりの即効性を疑問視する相談が次々に寄せられた。
「ステロイドのリバウンドと同じような症状になった。使用前より悪化した」(東京都の30歳代女性)
「生後6か月の娘に使ったところ、半日で体がツルツルになり、塗ってない部位の炎症まで治まった。塗るのをやめて5日後には元通りガサガサで、塗った部分が白くまだらに色素が抜けたようになった」(兵庫県の20歳代男性)
相談内容が深刻だったため、国民生活センターでは2008年7月、問題の「NOATOクリーム」を取り寄せて、テスト調査した。その結果、ステロイドとしては、5段階のうち最強ランクのプロピオン酸クロベタゾールが検出された。その含有量0.047%は、医薬品の製剤とほぼ同一だった。
このステロイドは、湿疹や皮膚炎などの治療に使われるが、副作用として、皮膚萎縮、緑内障になる危険がある。医師もほとんど処方しないほどの強いステロイドだったというのだ。
東京都でも、ステロイドを検出し、ラバンナへの立ち入り調査を行うともに、薬事法違反だとして、製造販売の中止などを指示。警視庁も08年10月、同社と関係先を家宅捜索し、立件の準備を進めていた。
ネット上の口コミを使った悪質商法について、国民生活センターの危害情報室では、こう指摘する。
「すごいウソでも、ネット上では、本当っぽく感じられることがあるのでしょう。素人の体験談なので、本当かウソか見分けがつきにくいのでは。ステロイドには恐怖心が強いので、それを使っていないという題目に弱い。ネット上の書き込みを何となく信用してしまう消費者心理がうまく使われています。店頭販売でなく、ネット上の通販などを利用する場合は、特に注意が必要でしょう」