「視聴率最優先」の考え方 これが様々なゆがみ生んでいる
(連載「テレビ崩壊」第6回/優良放送番組推進会議 月尾嘉男事務局長に聞く)

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番組の質が確かなら、テレビは生き残る

――「優良な番組」とはどんな番組をイメージしているのでしょうか。

月尾 推進会議として定義付けはしていません。個人的意見では「何を伝えたいか」が明確な番組です。勿論、伝えたい「何か」の内容も吟味する必要はありますが、昨今の番組は何を伝えたいのかが分からないものが多すぎます。
   多くの番組は、まず出演者、タレントありき、の発想で、その予定を押さえることから始まっています。次に、そのメンバーで何ができるか、ではこんな番組を作ろう、と進めているようです。本来は逆であるべきで、訴えたいことを伝えるにはどういう番組にする必要があり、その番組を実現するにはどのような出演者が良いか、と考えなければならないはずです。

――7月までに4回の評価結果を発表しています。どんな結果が出ていますか。

月尾 視聴率が低くても評価は高い、その逆もあるという結果が出ています。ニュース番組を対象にした初回調査の結果の1位は、テレビ東京系の「ワールドビジネスサテライト」でした。同番組より視聴率が高い「NEWS ZERO」(日本テレビ系)や「報道ステーション」(テレビ朝日系)は10位前後にとどまりました。調査参加者のコメントを見ると、冷静な分析やじっくり追いかける姿勢が高く評価されているようです。逆に、いかにも人気取りのコメンテーターが出てきて的はずれの話をするという番組は評価されません。

――推進会議の取り組みは、大広告主が参加していることもあり、テレビ局を萎縮させる危険性があるのでは、という危惧もあるようです。

月尾 推進会議サイトへのメールによる意見でも、そのような趣旨の懸念の声が4割程度になっていますが、6割は賛同して自分も参加したい、という意見です。推進会議の取り組みは、あくまで視聴率以外にも評価軸があることを示すことであり、広告主として圧力をかけようという発想はありません。いろいろな意見があることをテレビ局が知る必要はありますが、報道機関でもあるテレビ局が萎縮してもらっては困るし、萎縮させようという気も勿論ありません。

――視聴率至上主義が変わらない場合、テレビ局の将来はどうなると予想されますか。

月尾 電通の広告費調査をもとに単純に試算すると、すでにラジオ・雑誌を抜いたインターネットはほどなく新聞も抜き、2013年にはテレビを抜く可能性もあります。テレビ番組の意義が残り得るかを考える際には、コンテンツの質は重要な要素です。コンテンツを作る能力は、まだまだ新聞・テレビには強いものがあります。そしてそれがネットに対して強みでもあります。しかし、テレビがそのコンテンツの質の低下を原因も見極めず放置すれば、存在感は大きく低下すると思います。ネットをいつまでも敵視せず、友達になって取り込む必要もあると思います。いずれにせよ、番組の質を確かなものにできれば、今後もテレビは一定の役割を果たし続けることができる。そのためには、視聴率至上主義からの脱却が必要ですが、簡単ではなさそうです。

<メモ:優良放送番組推進会議>2008年10月から26社が参加し、評価方法のテストなどを始めた。09年4月、正式に発足。現在、トヨタ自動車やパナソニック、三井物産など35社が会員となっている。委員長は、元東大総長の有馬朗人・元文相。年齢構成や男女のばらつきなどを考慮するため、参加企業の社員だけでなく、家族やOBも評価調査に加わっている。調査はアンケート形式で、分野ごとに示される番組リストから、見たい番組を複数見た上で5段階で評価する。点数を集計し、平均点を求め順位をつける。参加人数は400~500人で、回答数は5000件前後。近く参加企業を50社に増やし、遠からず100社を目指す方針だ。10年度以降も現行の形で続けるかどうかは未定。対象を一般市民に広げる案も検討している。


<月尾嘉男さん プロフィール>
つきお よしお 1942年生まれ。東京大学工学部卒業、同大大学院建築学専攻博士課程修了。東大工学部教授や総務省総務審議官などを経て、現在東大名誉教授。専攻はメディア政策・システム工学。著書に「地球の救い方」「ヤオヨロズ 日本の潜在力」など多数。カヌーで南米最南端ホーン岬を漕破するなど冒険家としての顔ももつ。

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