高視聴率を取れる番組をつくろうとした結果、各局似たような番組が並びつまらなくなった――そんな声をよく耳にする。視聴率は、テレビにとって唯一絶対の指標なのか。「良い番組」について考え直すきっかけを作ろうと、大企業などが参加し2009年春、「優良放送番組推進会議」(メモ参照)が発足した。事務局長を務める月尾嘉男・東大名誉教授(メディア政策)に話を聞いた。
「見る番組なくなった」そんな声に耳傾けよ
某民放局の番組審議会委員の経験もある月尾嘉男・東大名誉教授。「ある特番の制作費の7割は出演料だと聞いたことがある。こうした費用の使い方では、本当に良い番組は作れないでしょう」
――推進会議作りの旗振り役をするようになったきっかけは何ですか。
月尾 海外のテレビ番組と比較して、日本の番組は特殊で、ガラパゴス番組といってもいいと以前から感じていました。芸能人など専門外の人々が得々と語るニュースショーや、該当スポーツの知識もほとんどなさそうな女子アナが伝えるスポーツ番組などです。海外では、専門家が専門分野をじっくり解説するのが普通です。どうにかならないものかと問題意識は持っていました。
そんな中5年前、ある企業の経営者とたまたまテレビ番組の話題になりました。彼は地上波テレビを見なくなった、見る番組がないというのです。見るといえば、衛星放送の海外ドキュメンタリーぐらいだと、私と同様、日本の番組の内容について問題視していました。こうした意見をもっている経済界の人が何人もいるとも指摘しました。そこで、テレビ局側に番組の内容について意見が言える組織をつくれないかという話になったのです。以来、仕事の合間を縫って少しずつ賛同企業を増やしてきました。
――番組の質を考える上で、問題点はどこにあると見ていますか。
月尾 視聴率を最優先するテレビ局の考え方が様々なゆがみを生んでいるのではないかと考えています。視聴率以外にも評価軸があっていい、ということを示したいのです。PTAが以前から「子供に見せたくない番組」を調査、公表していますが、これも1つの指標です。ほかにも今回私たちがやっているように、産業界の視点もあっていいだろうと思います。企業という枠組みにこだわっている訳ではなく、将来的には広く一般の人々の声を反映できないかと考え、検討しています。
――高視聴率を求めているのは、テレビ局だけでなく、広告主としての企業もそうなのではないでしょうか。
月尾 推進会議では「広告主の視点」に偏らないよう、参加企業の3分の1程度はテレビ広告を出していない会社にも入ってもらっています。確かに、企業の宣伝担当部局の担当者は、テレビ局に対し高視聴率を求める部分はあると思いますが、企業の経営者の捉え方は大きく変わりつつあります。
ある企業が、自社の複数の製品についてテレビ広告にかけた時間・費用と、実際の売れ行きの関係を調べたことがあります。その結果は「全く関係ない」というものでした。そこでこの企業の経営者は、自社のイメージを良く受け取ってもらえるような、いい番組に広告を出すという方向に転換したそうです。企業の経営者と話していると、特定商品の売り上げについてのテレビ広告への期待は薄く、企業の基本姿勢を伝えることができるような質の高い番組へ広告を出したい、という思いが強い人が増えていると感じています。
高視聴率を強く求めているのは、やはりテレビ局です。番組と番組の間に流すスポット広告の単価は視聴率と連動するので、高視聴率の方が儲かる仕組みになっているのです。広告主が視聴率にうるさいからやむなく、ということだけでは決してないと思います。